
さて本日は、墓場先生の『変態たち』(ティーアイネット)のへたレビューです。先生の前単行本『女教師 市川美由紀』(同社刊)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
理不尽なシステムの中で溶解し、変容していく自己というものの不安定性と激しい行為に悶絶する狂気的な痴態が味わえる1冊となっています。

1話・作当りのページ数は20~32P(平均27P弱)と平均値として標準を上回るボリュームで推移。エロシーンの強烈なインパクトとボリューム感を軸としつつ、それを巡る登場人物達の描写によって作劇にも存在感がある構築となっています。
【解放としての魅力と変容の不安が入り混じる理不尽な状況】
中~長編を得意とする作家さんですが、今回はオムニバス形式である中編シリーズを含めて読み切り短編が揃った1冊。長編作のような重厚なドラマ性は無いものの、とは言え、ダーク&ヘヴィな読み口の作品が揃っています。
変態ガールと秘密を共有することになる青春ストレンジラブな短編「不思議な霧島さん」はポジティブな解放感のある変態ラブストーリーですが、その他の作品は悪意や狂気、妄執、理不尽といったものに支配される暗く重い雰囲気をまとっています。
性的な公共物という存在に落される中編「肉便器設置法」シリーズ、人間ではない“犬”という存在であると認定されると家畜として扱われる短編「犬」、寂しさと絶望感から犯行に走った中年男性に拉致監禁される少女を描く短編「和美」と、いずれもヒロインに理不尽な状況が押し付けられ、苛烈な性行為によって心身が蹂躙される姿を描き出していきます。

また、他者の評価や過去から解放された変態(Abnormal)としての変容に、異なる存在へとドラスティックに変化する“変態”(metamorphosis)の意味合いが重ねられている様にも個人的に感じられ、自ら人間でない存在になる願望が伝染していく短編「犬」の展開や、凌辱の果てに共依存的な立場の自己をヒロインが確立させてしまう短編「和美」など、変容と破滅の甘美に自らを浸したいという願望が登場人物を通して語り出されているとも感じます。
自己同一性の不安定性、あるいは可塑性を表現するラストはじんわりと重く、狂気性の恐ろしさと得体の知れない魅力を香らせるものとなっており、解釈の余地を含めて読後の印象が強く残るタイプとなっています。
【表情の美しさとそれを減耗させる小道具の使い方】
中編シリーズ第2話に登場する20代半ば~後半程度と思しき女教師さんを例外としていずれも女子校生ヒロインとなっています。

冴えない中年男性の悲哀と狂気が滲み出る短編「和美」の男性キャラのように、作劇面で存在感のある竿役もいますが、基本的にはヒロインの心理とその変化を丁寧に描き出すスタイルであって、男性キャラ達は狂気や理不尽が支配する状況を形成するための一種の装置に過ぎない描き方とも感じます。
程好い肉感で等身高めの体幹に、並~巨乳クラスのバストと適度な肉付きの桃尻を組み合わせたボディデザインとなっており、肢体造形そのものに強い特徴があるわけではないものの、黒髪清楚美少女やツンツンしたツインテ美少女など、キャラデザインとしての方向性に明瞭さはあります。
各種拘束具に加え、ボンテージ的な衣装が多いことに加えて、顔面全体を覆うマスクや鼻フック、ギャグボールなどヒロインの顔面の美しさを敢えて変貌または封印させる小道具を多用するのはこの作家さんの特色であって、無貌の存在として個性や人格が喪失された状態へ、無様な表情での転落・変容の視覚化と密接に関係しています。
描かれる状況もあって重さや濃さが明瞭な作画となっており、独特の世界観や激しいヒロインの痴態と相まって絵柄そのものにも印象の強さがあります。
【言葉にならない悶絶ボイスが響き渡る狂乱の痴態描写】
ハードな性行為を通じたヒロインと周囲の人物達の変容を描き出していくスタイルであるため、十分なボリューム感のある濡れ場となっており、量的なボリューム感以上に質的な強烈さが満腹感につながるタイプでもあります。
変態ではありつつ自らの性的興奮と痴態という恥ずかしいことを共有して快楽を得るという非常に真っ当でポジティブな性愛が描かれる短編「不思議な霧島さん」は少し変わったラブエロ系ではありますが、その他の作品は凌辱エロをメインとしつつ、共存的な倒錯の性行為も描かれています。
肉便器として扱われ、尊厳を踏み躙られての凌辱や集団での輪姦、拘束しての危惧責めや浣腸といったヒロイン側が一方的に嬲られるハードなプレイが多いことに加え、変態であるヒロインや性行為の中で変容したヒロインが積極的にアブノーマルなプレイに参加していく流れでも欲望や狂気が加速させる快楽のドライブ感を打ち出していきます。

言葉にならない嬌声を叫びながら仰け反ってアクメに震える様子や、前後上下に肉穴を貫かれて肢体を好き放題にされている様子、ややラフな印はあるものの結合部の見せつけ構図や断面図での挿入感の強調など、女体そのものの存在感も強く打ち出して、その自由が喪失されている状態の落差を印象付ける描き方が鮮烈。
複数ラウンド制で前後の穴に白濁液が注がれるシーンに十二分なアタックの強さを打ち出しており、好き勝手に射精される状況そのものに強烈な感情と快楽を入り混じらせながら悶絶し、痙攣するヒロインの狂乱の痴態を描き出してハードなエロシーンを〆ています。
短編集ながらこの作家さんらしさは存分に発揮され、読み応えのある1冊。実用性も含めて読み手によって評価は大きく分かれるタイプだとは思いますが、その場合でも強烈な印象を残してくれるのは間違いないでしょう。
個人的には、肉便器という存在に対して三者三様の反応と変容が描かれる中編シリーズが最愛でございます。