RainWhichDoesntFall 沙村広明先生の『波よ聞いてくれ』第6巻(講談社)を読みました。ミズホさんのラジオDJ観の会話、いい話だなぁと思いましたね。中原が相手を尊重しつつも、相手のためにその人生に踏み込むことを厭わない姿勢とちょっと通じるものがあるなぁとも感じました。
波の智慧派騒動、これ何のバトル漫画!?って感じでしたが、最後の最後に公共放送とはという命題を持ってきたのは流石ですなぁ。

  さて本日は、大横山飴先生の初単行本『落ちない雨』(茜新社)の遅延へたレビューです。店頭では是非裏表紙も観て頂きたいのですが、男性キャラクターをしっかりと描くというスタンスが表紙にも表れているなぁと感じます。
思春期の不安定さの中で独特の精気に満ちたセックスがシンプルにしてエモーショナルに描かれる作品集となっています。

  収録作はいずれも読み切り形式の短編で計7作。1作当りのページ数は24~46P(平均33P強)と幅は有りつつ平均値としては標準を優に上回るボリューム。一般的な意味でのストーリーの存在感やエロのボリューム感は無いものの、じっくりと読ませる作りであって、胡乱な表現ですが、作品としての存在感があるように感じます。

【性的欲望や好奇心に文脈を付けずにそれそのものとして表現】
  一般的にエロ漫画においては、恋愛セックスによる相互認証であったり、凌辱エロにおける他者の心身への侵犯であったり、寝取られや堕ちモノ系におけるヒロインの変容を引き起こすものであったりと、セックスは他者との関係性に踏み込み、また何らかの重要なものをもたらすものとして表現されます。
いずれも思春期の少年少女のセックスを描く本作の短編群は、そういったセックスの劇的な何かを描くことをせず、性的な欲望や好奇心がただそれとして発現される流れとなっており、エロ描写としてアタックがかなり控えめであることもあって、淡々とした印象があるのは確か。
RainWhichDoesntFall1  一定の信頼関係があり、またセックスを通して快楽の共有を果たしながら、だからといって恋人関係になるわけではないストーリーが多く、そのことが男性キャラクターの胸にちくりと痛みを残すことはありつつ、単純にイコールではない性と愛における前者の純粋性は若者らしい瑞々しさと評し得ます(←参照 “何もわかんなーい” 短編「ゆらゆら」より)。
全体的にキャラクターやその背景について丁寧に説明してくれるスタイルではないものの、抽象的で詩的な台詞表現で夢の内容と体臭に関する話が暗い部屋の中で為される短編「夜の想い」、体を重ねながら少女への不信を捨てきれない少年とその少女の終盤のモノローグで寂寥感を打ち出す短編「ずっといっしょ」など、台詞回しが印象的であることも作品に読み応えというか、彼ら彼女らの在り方に思いを巡らせる奥行きを形成しているとも感じます。
本当に普通にセックスするだけな展開の短編「夕暮れに帰った日」、後輩と何となく続けていたセックスとそれが自然消滅する流れを描く短編「最近あったこと」などは、前述した淡々とした印象がより鮮明ですが、その上で登場人物の報われない感情などがじわっと滲み出ていることで話としての単調さは回避している印象。
  ラブラブなハッピーエンド♪といった漫画的な分かり易さの無いまとめ方を含め、全体的にカテゴライズは難しく、かなり個性的な作風であるのは確か。雑な括りで恐縮ですが、複雑な様で意外にシンプルでもあり、一定の生々しさの中で好悪の感情が入り混じりながらも目前の快楽に浸る素直さを感じさせる青春ストーリーと言えるでしょう。

【リアル寄りのキャラデザインと作品ごとに変化する画風】
  いずれの作品も女子校生ヒロインで統一されており、短編「ゆらゆら」の男性教師を例外としつつ、男性キャラクターも同世代か少し上の世代であって、思春期後半の男女双方の性にフォーカスを当てています。
  漫画チックなキャラクター属性を持たせたヒロインでは全くないものの、前述した性的な興味や欲望の素直で瑞々しい印象や、淡々とした印象ながらも登場人物達を突き動かす感情の表出の鮮やかさなどに魅力があるタイプと感じます。
RainWhichDoesntFall2  ボディデザインについても、巨乳美少女的な分かり易いエロさは追求しておらず、貧~並乳で適度な肉感のある女体描写は現実的なボディバランスという印象。その一方で、足の指まで丁寧に描く足先の描写に強いフェティシズムを感じさせますし(←参照 短編「雨宿りの人」より)、蚊による虫刺され、歯や唇、ほくろ、ニキビなど、人体としての生々しさを感じさせる体パーツの描写を織り込んでいます。
後述する様に絵柄の変化に伴って、女体描写のエロさやヒロインの可愛らしさの表現などもかなり変化しているのですが、全般的に性器描写も比較的リアル寄りであって、こちらにも一種の生々しさがあることが、エロシーンの実用性に寄与する要素。
RainWhichDoesntFall3 非常に丹念に描き込みつつ、ざらっとした質感のアナログ絵柄で魅せるデビュー作「雨宿りの人」から、画面の重さはそのままにもっと繊細で柔らかな絵にした短編「夜の想い」(←参照 同短編より)、更には画面の密度はむしろ排して、少女漫画チックなふわっと柔らかい描線と丸みで可愛らしさを魅せる短編「夕暮れに帰った日」など、作品によって絵柄の印象は異なっており、初単行本である故の質的な変化というよりも、明確に狙いが異なる故の多彩さと感じます。

【生々しさを帯びた官能性を落ち着いたトーンの描写で提供】
  各作品のページ数に比して、エロシーンの尺はそれ程長くはなく、量的な満腹感は強くないことに加えて、質的なアタックの強さや演出の濃厚感などもあまり追求されていないため、抜きツールとしての満足感は個人的には低く、実用的読書も致しておりません。
  いずれも合意の上でのセックスでありつつ、前述した様に相手の心中へ強く踏み込むセックスではなく、性行為そのものとして感覚を個々人が楽しむ行為として表現されている印象で、高揚感もありつつ全体的に落ち着いたトーンになっています。
RainWhichDoesntFall4  作品によって“エロ漫画的な表現”をどの程度意図しているかにはかなり幅があって、台詞や擬音などを強く排除し、単調なコマ割りで紡いでいく短編「雨宿りの人」といったタイプもあれば、性的快感に反応するヒロインのキュートな表情とハートマーク付きの嬌声や擬音を組み合わせた描写を魅せる短編「夕暮れに帰った日」といったタイプもあって(←参照 同短編より)、いずれにしても量的・質的に強く抑制を効かせた痴態描写と言えますし、作家さん自体がエロ漫画的に一般的な手法を用いることに強い抵抗感を覚えていることがあとがきから窺えます。
  その一方で、言葉で語られる臭いに関する表現、美少女ヒロインの肌を濡らす精液の質感、前述した生きた体を感じさせる体パーツ描写と生々しさのある各種の粘膜描写などが、描写として決して高い密度を有するわけではないものの、一種の精気を帯びた淫猥さを醸し出しています
複数ラウンド制の展開を取ることが多く、柔らかく艶のある唇が竿に触れて白濁液が発射されるフェラや最奥まで挿入しての中出しをアップ描写で魅せるシーンなどは、抜き所として相応の威力を有していますが、その一方で演出的な盛り上げはあまり意図されておらず、男性の早漏を心中で嘆くヒロイン側のリアクションなど一般的には抜きの阻害要因となる要素も含まれるなど、使いやすさへの意識は低いとも感じます。

  当ブログは基本的にエロ漫画としてのレビューを書くところですので、どうしても評価を下げざるを得ない部分が多いのですが、とは言え非常にユニークな作風で、思春期の性愛というものをしっかりと軸に据えたエロであり、また漫画であるのは間違いないと感じます。この作家さんの作品を載せたコミック高およびその後継のアオハは英断であったと思います。
個人的には、比較的シンプルにエロ漫画らしさを追求しつつ、ヒロインの感情のままならさを覗かせる短編「夕暮れに帰った日」が最愛でございます。