Pinfold  沙村広明先生の『波よ聞いてくれ』第5巻(講談社)を読みました。宗教法人に監禁されるという意外過ぎる展開ですが、それでもしっかりラジオ放送とはという命題にも迫っているのは流石。
やや薄幸さも感じる眼鏡巨乳クール美女・穂隠さんのハニトラ、受けたいですッ!!

  さて本日は、咲次朗先生の初単行本『埒』(ジーオーティー)のへたレビューです。個人的には本年屈指の注目初単行本と位置付けております。
暗く狭い檻の中で、人間らしさの慟哭が響き渡る印象的な作劇と様々な感情を含んだ快楽の奔流のセックス描写が詰まった作品集となっています。

Pinfold1  収録作は、過去に大切な女性を失い後悔と共に心に虚ろを抱えていた男性は、妄想を具現化するという方法に興味を抱き、彼の妄想の中でその女性を“実体化させる”ことに成功するのだが・・・な連作「ときこえ」前後編(←参照 “ちゃんと感じる” 同連作前編より)、および読み切り形式の短編7作+短編「泥濘」「泥濘る底がやさしくて」のコラボ?な描き下ろし短編(16P)。
なお、「泥濘」シリーズ2作と「ずろうにん」および「君に咲くダリア」は世界観が共通しており、実質的にはひとつながりの作品として、複雑な関係性の絡み合いが描かれています。
描き下ろし作品を除き、1話・作当りのページ数は16~30P(平均24P強)と幅はありつつ中の上クラスのボリュームで推移。短編メインながら作劇面での強い存在感がある構築であり、実用的読書に供しやすいかはともかくとして、濡れ場の分量も十二分に用意されています。

【人の愚かしさとその等身大の救済】
  単行本タイトルの“埒”には、“区切り”という意味もありますが、収録作の傾向を示すものとしては、“囲い”“柵”という意味合いでくみ取るのがおそらく正しいと個人的には感じます。
告白しきれぬまま死別した女性を妄想の内に具現化させる男性、過去の罪科を抱える男と復讐を果たさんとする被害者の女性、虐待を受けてきた少女と彼女の居場所となるヤバイタイプの男性、優等生な自分を嫌悪し、自傷的な性行為にふける少女、憧れの存在であったヒロインを脅迫し凌辱する少年とそれを受け入れ続ける少女と、いずれの作品も屑や狂人の吹き溜まりといった様相を呈しています。
Pinfold2復讐、自傷、後悔に狂気を帯びる妄想、精神的外傷と狭く暗い檻の中で苦しさや息苦しさを感じながら、言葉の、時に本当の刃を剥き出しにして傷つけあうこともある登場人物達の姿は(←参照 暗い笑顔 短編「泥濘る底がやさしくて」より)、そこに渦巻く負の感情も含め、ドラマとして誇張されながらも、現実の縮図である故に、読み手の胸に迫る凄味があると評し得るでしょう。
  とは言え、作者はそれらの愚かさ、辛さを不必要なものとして切り捨てることもしておらず、そういったものが登場人物達をそれそのものの人間たらしめているのだと描き切っています
後悔や喪失感を残したままの切ないラストや憎悪の煙だけが残る苦い終焉を迎えることもありますが、それらを含めて各作品における登場人物達はそれぞれの愚かさや辛苦と共に、信頼関係や安寧を得て彼らなりの幸福を獲得していく流れになっており、登場人物達と同じく何らかの“檻”の中にいる読者にとって、ハッピーチューンのラブエロ系とはまた異なる、“四十八の大願、初にまず一切凡夫のため”的な救済が存在する作劇と評したい所存。
  シナリオワークとして、ある種ズルズルと話が進行する中で衝撃的な展開や言動などで急に切り込んでくるなど、緩急の効いた語り回しの良さもあり、趣向として万人向けとは言い難いものの、独創的でありつつ芯は普遍的という、非常に印象的な作劇であると感じます。

【正負の入り混じる感情の表現で魅せる女性キャラクター達】
  女子校生級の少女が過半数を占め、そこに20代前半~後半程度と思しき綺麗なお姉さんタイプの女性が加わる陣容。
犯罪行為や虐待の被害に遭い、それが精神に重い影を残している女性キャラクターが多く、シリアスなストーリーに大きく影響すると共に、一般的な社会通念からすれば愚かさやだらしなさを抱えて、下方へ下方へと流されていく様相を描いていますが、それが単なる“堕落”や“破滅”でないことは前述した通り。
  男性キャラクターに関しても、概ね“屑”か精神的に変調をきたしている人物達ですが、これまた単なる“悪役”や“狂人”ではなく、負の側面も善なる側面も両方あって、それ故の泥臭い“人間らしさ”があることは女性キャラクターと共通していると評し得るでしょう。
Pinfold3前述した様に、狂気的なものも含め、感情が爆発的に表出する描写が人物描写における強い個性となっており(←参照 満たされぬ憎悪 短編「君に咲くダリア」より)、それら相手を傷つける様な強い言葉の中に、相互のつながりを強く求める不器用な感情が込められている様に感じるのは唸らされます。
  貧~並乳クラスのほっそりとした、胡乱な表現ですが何処か薄幸そうな、ボディデザインを数名に対して用意していますが、基本的には巨乳&安産型ヒップの程好い豊満具合のエロボディが揃っており、肢体描写そのものは十分に官能性を備えています。
  敢えてジャンル分けするならば、雰囲気の醸成を重んじる創作系の絵柄であり、キャラデザインとしても地味なタイプであったり敢えて美しさを減衰させる要素を含んだりな女性キャラクターとの相性は良好。二次元絵柄的な華やかさやキャッチーさには欠けるため、好みは分かれると思いますが、中身の絵柄の統一感は高く、表紙買いしても問題は無いでしょう。

【アタックの強いエロ演出で彩る痴態が生む感情の奔流】
  精神的な面でのせめぎ合いを重視した構成でありつつ、それがセックスと直結して大変にややこしいことになる作劇ということもあって、濡れ場の分量としては十二分に多く、様々な感情を織り交ぜながら性的快感に浸っていく登場人物達の姿を提供
  ある種の承認欲求や、復讐心、自傷的なマインド、嫉妬が絡み合うエロ描写は、和姦であっても傷付け合いながら身を寄せ合うような矛盾や歪みを感じさせ、また妄想彼女とのラブラブHな連作における後悔や虚ろさを感じさせるエロシチュなど、性的欲望のエネルギー感に素直に乗り辛い流れであるのは確かであって、抜きオリエンテッドなスタイルとは言い難いのは確か
とは言え、そこに自身の存在を刻み付け、相互に確認する様な情念が満ちているのも確かで、清も濁も飲み込んで目前の肉の快楽にひたすらに溺れようとする縋る様な想いが、作中の性行為に強烈なエモーショナルさを呼び込んでいるのも確かであって、そのアンビバレンツさを受け止められる諸氏には優良な抜きツール。
Pinfold4  男女が体を合わせることに、言語を超越した価値を見出す性描写とも言え、ヒロインのスレンダーボディまたは豊満ボディの存在感を打ち出しつつ、比較的男性の体躯の存在感を強く打ち出すことで(←参照 短編「肌憶」より)、双方の感情と共に両者がゼロ距離で向かい合う様相を表現していると評しても良いでしょう。
切れ切れに紡ぎ出される喘ぎ声、精神的苦痛や感覚の衝撃を感じさせる怯えた様な表情付け、涙や涎を零す蕩け顔、嬌声の描写と共に行為の勢いを感じさせる各種擬音の散りばめなど、エロ演出には十分な密度を備えており、エロ描写のボルテージを高めると共に、そこに破滅的な後ろめたさを感じさせることが、良かれ悪しかれ抜きツールとしての実用性を左右する要素と評し得ます。
  小ゴマの切り出しが比較的多く、情報量を増す上では有効な一方、エロ描写のリズムとしては難点を抱えているのは確かですが、そこで表現される感情の揺れ動きや肢体の反応が作品全体の中で意味あるものであるのも確かで、複雑な感情の迸りと性的な充足に震える痴態のフィニッシュへと密度を高めながら進行するシークエンスには非凡な力強さを感じさせます。

  作劇として読み手を選ぶこと、またエロ描写として強いアタックを有すること自体が作劇の方向性と合わさることで実用性に単純な直結を示さないことは、エロ漫画として好みが分かれるのは間違いないのですが、描きたいことを描ききったと感じさせる納得感は見事であって、作者の感性に最大限の賛辞を送りたい所存。
個人的には、ヒロインのラスト付近の台詞“・・・まさか”に万感の思いを感じた短編「泥濘る底がやさしくて」が最愛でございます。エロ“漫画”でしか表現しえぬ何かをお求めな諸氏に強くお勧めする所存。