LooseBrotherAndSister  伊藤静先生の『山田飯』(日本文芸社)を読みました。主人公の少女が、店名に“山田”の名前が付く飲食店(全て実在する店舗)を食べ歩くという一風変わった食べ物系漫画なのですが、食べ歩きの側面だけではなく、少女の青春模様と家族の再生を描く人情ストーリーが魅力的で、両者の不思議なケミストリーが楽しめる作品でした。

  さて本日は、楓牙先生の『ふしだらな兄妹』(ティーアイネット)のへたレビューです。なお、先生の前単行本『姉の秘密と僕の自殺』(同社刊)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
絡み合う過去の事件の謎を追う少年少女四人の家族の再生と瑞々しい精気に満ちたセックスが描かれる作品となっています。

LooseBrotherAndSister1  収録作は、父に続いて母親を亡くした兄妹・玲衣と芽衣、彼らの幼少期に偶然知り合い長い間友人関係にあった雅人、芽衣が雅人に紹介したクラスメイト・明希はそれぞれ重い過去を背負いながらも仲良く過ごしていたが、明希が過去の殺人事件の被害者の妹であることが分かり、彼らの家族を巡る重い過去の謎が彼らの手によって明らかになっていく・・・という長編「その扉の向こう側」全6話(←参照 兄妹の両親の死の謎を追い始める内に・・・ 同長編第2話より)。
1話当りのページ数は28~50P(平均36P強)と個々にかなりのボリュームがあります。このボリュームを十分に生かしたストーリーには強い存在感があり、エロシーンの存在感を作劇に組み込んだ、ストーリー重視の重厚な構築と評し得るでしょう。

【重い過去と向き合い、それを乗り越えていく生への讃歌】
  幼少期に両親を亡くした兄妹とその友人である雅人、やはり幼少期に凄惨な犯罪で姉を亡くした明希とそれぞれ重い過去を持つ4人の少年少女が寄り添うように平和に暮らしながら、兄妹が過去の事件と向き合い、その謎を解こうとするところから、彼らの過去と事件がリンクしていく話となっています。
兄妹の両親の死、そして明希の姉が殺された事件の真犯人を追うという、ミステリーの側面を有する作品であり、彼らを逆に犯人に仕立て上げようとする真犯人との頭脳戦なども、本格派ミステリーと言う程の水準ではないにせよ、作劇としての魅力の一つでもあります。
LooseBrotherAndSister2  その一方で、本作のストーリーにおいてもう一つの屋台骨となるのは、過去の事件の解決と共に、彼ら自身が過去やそれに由来する現在の自身に対して向き合い、その上で“重い扉”を自らの手で開き、その“向こう側”に歩んでいこうとする生への讃歌と評し得るでしょう(←参照 二人を結ぶ過去と今 長編第6話より)。
通常の婚姻・生殖とは異なる形式で継承される彼らの“家族”として絆とその確認、重い過去と向き合った上で恋人と相互を認証し、パートナーとなっていくことなど、“家族の再生の物語”は本作を含めた楓牙作品において、非常に重要なテーマとなっていると言えます。
  ミステリーとして、過去の二つの事件がどう絡み合い、また真犯人との対決がどうなるのかは、是非ご自分の目で確かめて頂くとして、楓牙先生の作品は、善き人がその行為によって報われることが基本であるため、重い話でありつつも読後感は非常に気持ち良く仕上がっており、そのことと前述した家族の再生や、生の希望がしっかりとリンクして描かれているのも話のまとめ方の良さと感じます。
  また、それら重いテーマ性と緊迫感のある展開の中で、二つのカップルの素朴で温かい性愛の模様も主要素として含まされており、この点も作劇に清涼感や誠実さを与えていて大きな魅力と言えます。

【過去と他者と自身に向き合う4人の若者達】
  女子校生級の美少女二人、それぞれのパートナーとなる男性キャラクター二人をメインに据えた登場人物設定であり、ある種、若さ故の感情の躍動や勢いが本作の謎解き要素や恋愛ストーリーとしての魅力に直結するスタイル。
クールなツンデレ系である妹ヒロインな芽衣、要領の悪さはありながら善良でHにも積極的な明希、厭世的な雰囲気を漂わせつつ芯の熱さや洞察力と記憶力に優れた謎解き役の玲衣に、優しく大人しいオタク青年である雅人と、漫画チックな親しみやすさやキャラとしての善良さを有しつつ、それぞれが重い過去と直面する中での心の動きを、そのままならなさも含めてシリアスに描いていることが人物描写の明確な特徴と言えます。
  単行本タイトルに“ふしだらな”とあり、確かに兄妹の近親エロスの側面を有していますが、両親を亡くした環境において、信頼できるパートナーであり、恋愛感情を含めて自らを託すことの出来る、正しく“半身”としての存在同士の性愛は、健全ではないかもしれない一方で、非常に健康的で清々しい関係性を描いていると言えます。
また、もう一方のカップルである雅人と明希の関係性は、清純な恋愛模様として表現されつつも、犯罪の加害者の血縁と被害者の血縁が相互の事情を明かした上での相互認証という、非常に重いテーマ性を抱えていると評し得ます。
LooseBrotherAndSister3  キャラクター性は違えども、それぞれ清楚で思春期らしい感情の瑞々しさを感じさせる二人のヒロインは、程好い肉感を有する黒髪巨乳ボディとなっており、肢体描写そのものに強い個性があるわけではないものの、シナリオパートで醸成された親しみやすさがエロシーンにおいて開陳される、一種のギャップとしてのエロさを形成(←参照 クーデレ妹の熱っぽい痴態と巨乳ボディ 長編第3話より)。
  一般向け誌に載っていても何ら不思議ではない、健康的であっさりとした印象の絵柄は、十分なキャリアに裏打ちされた安定感で表紙絵と完全互換のまま一貫しています。小ゴマの切り出しが多いこともあって、賛否はあると思いますが、比較的密な画面構成が保たれていると言えるでしょう。

【抑えた演出でじっくりと興奮を高めていく純愛セックス】
  前述した様に、個々の十二分に多いページ数を有しつつ、これをがっつり長尺のエロシーンに割り振るのではなく、標準的な分量を濡れ場に持たせつつ、ストーリーの描写を重視するスタイルであるため、この作家さんのファンには言わずもがなではありますが、大ボリュームのエロシーンを期待するのは避けるべきでしょう。
  互いに不器用な若者同心の性愛、過去を清算していく中で現在において目前にある半身を慈しみ、求めあう熱情的なセックス、相互の関係性の当り前な延長線上にある性行為と、描かれるセックスは、ストーリーの中で登場人物達が、まるで補完し合うような意味合いを帯びており、抜きツールとしてのアタックを備えつつ、大きなストーリーの中で意味を持つ和姦シチュと評し得るでしょう。
  ページ数の余裕がある分、前戯パートと抽挿パートにバランスよく分量を振り分けており、清楚系美少女がち○こを舌で丁寧に愛撫するフェラ描写や、既にぐっしょりと濡れた秘所を指や舌で解きほぐす愛撫描写などを備えて前半の盛り上がりを、じっくりと形成。
LooseBrotherAndSister4抽挿パートは力強く、かつぬめった質感の水音が奏でられる秘所のアップに、堪えきれずに漏れ出る嬌声と快感を堪えるようなキュッと閉じた瞳の表情など、比較的抑えた演出と肢体そのものとの密着感などを重視する構図とで、大ボリュームを生かした1Pフルのフィニッシュへと十二分なタメを作り出していきます(←参照 長編第5話より)。
  この作家さんの単行本レビューの度に繰り返して申し訳ないのですが、即効性のある強力な抜きツールをお求めであるならば、物足りなさがある分量および濃度のエロシーンであるのは確か。その一方で、ストーリーの落ち着いた語り回しと、登場人物の熱情が溢れ出てくる精気に満ちた性描写とのギャップは、作品全体に抑揚を生む要素であることに加え、濡れ場の解放感・熱情を高める大きな魅力であって、この作家さんらしい魅力のあるセックス描写として確立されているのは、小さくない美点であると強調しておきたい所存。

  衝撃的な冒頭から、紆余曲折を経て未来志向のラストへとまとまっていくストーリーの流れが非常に魅力的であり、重いテーマ性を適度に軽やかに、そして十分に真摯に描いた作品であると言えるでしょう。
万人向けとは言い難い一方で、読んだ人の気持ちを前向きにさせてくれる人間賛歌としての魅力が好印象な作品でした。