
基地守備隊を率いる3尉、いかにも叩き上げらしい頼もしさがありますが、佐藤達とどう戦えるでしょうか。佐藤一派はともかく、登場人物達がそれぞれを腹を括ったということが伝わって参りました。
さて本日は、ヤマダユウヤ先生の初単行本『溺れる白昼夢』(文苑堂)のへたレビューです。“純文学エロス”というキャッチコピーには個人的にそそられるものがありますね。
日常の中に宿る恋愛のささやかなドラマを程好い抒情性と美少女達の官能的な痴態とで描き出す作品集となっています。

1話・作当りのページ数は18~28P(平均22P弱)と標準的な部類。短編作ながら、適度に奥行きのある作劇には一定の存在感があり、濃過ぎず薄過ぎずの痴態描写を標準的な分量でお届けな構築で安定しています。
【穏やかで適度な味わい深さのある日常の性愛模様】
姉妹とその幼馴染の少年3人の想いが微妙にすれ違いながら、恋愛感情や嫉妬、後ろめたさ等の感情と彼らの肢体が絡み合っていく連作の様に、登場人物達の関係性にある“もどかしさ”を描く恋愛ストーリーが揃っており、“純文学エロス”というキャッチコピーはその作劇の方向性が持つ魅力と合致していると感じます。
従兄妹や兄妹同士の恋(短編「芳醇シスター」「アトリエ白昼夢」)、男友達の様に付き合いながら親友に恋をしているらしき友人の少女(短編「変わらないもの」)、恋人同士でありながら共に真面目でセックスへなかなか踏み出せない二人等々(短編「Secret Case」)、ある意味では常識的であったり、誠実であったりする故に踏み込めない部分に男女が如何に踏み込んでいくのかという恋愛ドラマであると評してよいでしょう。

また、それらの台詞回しに気取ったところがなく、嫉妬であったり躊躇であったりといったネガティブなものも含めて、少年少女達の感情の動きに読み手が共感できるような普遍性を感じさせるのが日常のドラマとしての魅力と評し得るでしょう。
分かりやすい棚ボタ展開であっても、好き合う二人のほのぼのとした恋模様に見せる手腕は、程好い抒情性も伴って大きな魅力である一方、逆に言えばラブコメ・エロコメ的なテンションの高さや設定の面白さでの一転突破のパワーなどとは縁遠いタイプであって、話として地味と感じる方もいるのは間違いないでしょう。
ほんのり切なさも感じさせる連作のラストも含め、基本的に穏やかな読書感を残すポジティブなまとめ方をしており、日常の中でもささやかな、それでいて当人達には大切な幸福として性愛を描き上げていると評し得ます。
【地味さもありつつ健康的な色香の美少女ボディ】
女子校生級の美少女を主力としつつ、女子大生~20代半ば程度の勤労女性を数名加えた陣容であり、大人びた雰囲気の少女もいれば、ある程度幼さを感じさせるタイプの女性キャラクターも存在。
友達として長い付き合いのボーイッシュな女の子、ある種の嫉妬と後ろめたさの板挟みになるSっ気美少女、普段の優しい表情と淫蕩さのギャップを感じさせる先輩や、引きこもりがちで兄への思慕を募らせる少女と、いずれも漫画における“キャラクター”として確立させつつ、前述した等身大の感情表現もあって、現実世界でも何処かに居そうなキャラクターとして成立させているのが、一つの大きなポイントでしょう。

ボディデザインについては、肉付き弱めの体幹に貧~並乳バストとほっそりした四肢を組み合わせる華奢なタイプから、健康的な肉付きに程好い量感のバスト&ヒップを組み合わせたタイプまで様々ですが、いずれにしても乳尻の肉感をたっぷり盛るタイプではなく、綺麗にまとめつつ現実感のある範囲に収めた女体設計と言えるでしょう。
初単行本ながら絵柄の安定感は高く、さっぱりと健康的な色香を感じさせる絵柄は、漫画チックな親しみ易さを備えた創作系のそれであり、強いセックスアピールや華やかなキャッチーネスには欠ける一方で、幅広い層にすんなり受け入れられるタイプの絵柄と感じます。
【抑えた密度で十分な熱っぽさを籠める痴態描写】
前述した様に抒情感のある作劇ですが、そのベースとなるのは若者らしい性の衝動性や瑞々しさであって、話として適度な深みを有しつつ、くどくどとした語りを投入することなく、サクサクとエロシーンへと進展する流れは、抜きツールとしての評価にも寄与。
職場で隠れながらのセックスや、近親セックスなど背徳感のあるものに加え、レズビアンのヒロインを巻き込んでの3Pセックスという好事家が激怒しそうなエロシチュもありますが(連作「ゆりの花」)、このエロシチュにおいて単に両手に花的な男性にとってのウハウハ感を出すのではなく、三者三様の微妙な心のすれ違いと重なっていく体の対比が描かれていたのは非常に技巧的であると感じました。
いずれにしても、和姦エロでまとまっているのは共通しており、前述したもどかしさが体を重ねることで氷塊していく流れと、それ故に若い肢体に迸る性的快感を素直に享受して、盛っていく流れにポジティブさがあるスタイル。
ぎこちくなく舌を重ね、求めあっていくキスや、相手の肢体に手で触れ、そのまままさぐっていく愛撫、見よう見まねのフェラやクンニなど、徐々に双方の緊張や興奮が高まっていく前戯パートに一定の尺を設け、ここでの射精シーンや潮吹きシーンなどから挿入パートへ移行。

ド派手な演出・構図をお求めな諸氏には不向きなタイプではありますが、前述した様に、親しみ易い現実感のある日常ドラマにおける性愛の描写としては大変にマッチした描き方であり、程好くアタックを高めてハートマーク付きの嬌声を上げるフィニッシュまで、美少女ヒロイン達が性的快感に夢中になる様を静かに、かつ熱っぽく描き上げていると評したい所存。
ストーリー・エロ共に派手さはありませんが、共に味わい深さのあるスタイルであって、過激一辺倒のエロ漫画に飽きたという諸氏には是非一読をお勧めしたい1冊。
個人的には、前向きさもありつつ切なさも残すラストと、美少女姉妹3Pセックスのゴージャスさがいい意味でミスマッチな魅力も生んだ連作「ゆりの花」が最愛でございます。