
個人的には吉乃さんの“人脈”の在り方と菜緒の人脈の在り方の対比が印象的でもありました。
さて本日は、Cuvie先生の『TEMPTATION』(スコラマガジン)のへたレビューです。先生の(成年向け)前単行本『INSULT』(同社刊)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
ピュアで瑞々しい青春ラブコメでも背徳の快楽に飲み込まれていくダーク&インモラル系でもヒロインの熱っぽい乱れ具合をお届けな作品集となっています。
収録作はいずれも読み切り形式の短編で計8作。1作当りのページ数は26Pと中の上クラスで固定されており、単行本としても十分な厚みがあります。短編集ということもあってコンパクトな作劇ではありますが、シナリオワークに一定の存在感があり、十分な尺と程好い濃度の濡れ場も安定供給されています。
【共に情動に衝き動かされる青春ラブエロ系とダーク&インモラル系】
作風の引き出しの多い作家さんですが、抗しがたい情動や欲望が登場人物を衝き動かしていくという構図が明確で一貫したスタイルであり、そのモチベーションが男女の関係性においてポジティブに相互認証されれば恋愛ストーリー、片方がそれに乗じて相手を利用するような関係性ではダーク&インモラル系となります。

穏やかなハッピーエンドへとスムーズに落着するこれらの青春ラブエロ模様に対し、不倫エロや体だけの関係を描くダーク&インモラル系は、登場人物が理性では状況のまずさを理解しながらも快楽に呑まれてずるずると関係を継続してしまい、歯止めが効かなくなっていることを明示して幕を下ろすラストで重さ・苦さを打ち出す流れとなっています。

いい彼女さんが居るにも関わらず、強烈な好意で自分を求めてきてセックスでも尽くしてくれる女の子との関係に男性側が溺れてしまう短編「毒の果実」は上述の構図の男女で入れ替えたものですし、明確に不倫エロではありつつコスプレという要素を用いてあくまでキャラクターの行為として双方の個に強く踏み込むことを回避し、罪悪感をむしろ弱める短編「アニヨメ」といった作品もあって、これらはヒロイン堕ちモノ系とは異なるインモラル感の作品と言えるでしょう。
ピュアでエッチな恋人ヒロインも、快楽に抗しきれない女性も、エロ漫画的ファンタジーの型にはまったキャラクターではありますが、それらの陰陽の感情の動きを説得力を持った筆致で描き出すことで、人工的な印象を感じさせずにエロ漫画的な王道に載せるシナリオワークとも総括できるでしょう。
【しなやかボディの美しさと適度なエロさの主張があるデザイン】
ヒロイン陣の年齢層は、半数が女子校生級の美少女さん、もう半数が20代前半~後半程度と思われる女性達となっています。
クーデレ系彼女さん、サバサバ系幼馴染さんといった青春ラブストーリーのヒロインに対し、ダーク&インモラル系では、悪い男な昔の彼氏と再会セックスをしてしまったり、酔いの勢いで行きずりセックスをしてしまったり、若い男と不倫していたことが露見し、その口封じとして近所の男性と関係を持ってしまう人妻さんだったりと快楽に飲み込まれてしまう背景や積極的な関与が示されるヒロインが登場。
他にもヤンデレ気味で男性に“都合が良過ぎる”存在の女の子や、旦那に内緒でコスプレをしている奥さんなど、キャラクター設定や性格付けそのものにもバリエーションがあります。
理性では駄目なこと、歯止めをかけなければいけないことと認識しながらもずぶずぶと関係ののめり込んでいくヒロインの心理を、セックスにおける蕩け具合と絡めて表現して背徳感を形成していますが、恋愛エロでは目前の快楽にがっつくことそのものを幸福な行為として表現しており、それぞれ相手との関係性を如何に描くかでキャラクターの在り方も変わるスタイルとも言えるでしょう。

すっかり完成された絵柄である分、適度な密度を保って安定していますし、シンプルですっきりとしたコマ割りながら十分な情報量を含ませて、絵としての緩急も付ける画面構成なども流石ベテランのお仕事と言うべきでしょう。
【程好い密度・アタックの演出で快楽に乱れる痴態を表現】
導入パートを比較的長く設けて男女の関係性を描いたり、ヒロインが背徳の快楽にのめり込んでいくことを示すための濡れ場の分割構成があったりしますが、十分なページ数がある分、メインとなるエロシーンには適度な量的満腹感が図られています。
不倫セックスの動画をネタに人妻ヒロインが犯されてしまう凌辱寄りの短編「生まれつき」の作品もありますが、恋愛セックスにしてもインモラル系セックスにしても、“合意”することに重要性のあるエロシーンであると言え、前者であれば相互認証の幸福感を、後者については自ら背徳の泥沼に歩を進めてしまう危うさにつなげています。
互いの素直な気持ちや感覚を言葉で共有することで初々しさや甘い幸福感につなげる恋愛セックスに対し、インモラル系では行為に耽溺してしまい、積極的に快楽を求めるヒロインのアンビバレンツな心理描写と、その状況を利用して言葉攻め的な要素や征服感を刺激する要素を持つ男性の一方的な台詞との対比も印象的。
抽挿パートの後のお掃除フェラなどのサービスプレイを投入することもありますが、前戯パートとしては舌を絡めあうキスや秘所を攻めるクンニや愛撫、それらの組み合わせを投入しており、分量にも幅がありますが、抽挿パートにスムーズに進行させる短めの攻勢がメイン。

ヒロイン正面への主観構図は特徴的で、乱れるヒロインの様子を独り占め的な優越感がありますし、ストレートな結合部見せつけ構図も適度なアタックがあり、快楽の熱に染め上げられていくヒロインの反応と肢体の密着感を見せ付けつつ、アクメに震える中出しフィニッシュへと適度なタメを設けてから突入しています。
ラブエロ系もダーク&インモラル系も、ストーリー&エロの両面でこの作家さんの魅力が十分に楽しめる短編集となっています。ただ、全体的に新味や意外性は乏しく、良く言えばスタイルの安定感ではあり、巧さや作品の生産速度の高さ故の難点でもあるのですが、既存の単行本に比してマンネリ感が無い訳ではないと感じます。
個人的には、相手がクソ男であり、かつ妹の恋人と分かりながらも建前を必死に取り繕いつつ再び火を着けられた快楽に溺れていくヒロインを描く短編「記憶サイアク肉の欲」が一等お気に入りでございます。