
主人公の言動に付いていけない面も多いのですが、それを自分と過去の日本語とに置き換えた場合に主人公達を否定できないアンビバレンツ感が凄いですね、この作品。
さて本日は、しらんたかし先生の『興味アリ』(ティーアイネット)のへたレビューです。先生の前単行本『仔づくりゴッコ』(同社刊)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
強烈なキャラクターを持つ男女が激しくせめぎ合いながら育む、狂気と純粋性の青春恋愛譚となっています。

なお、単行本収録の際にナンバリングが新たにされていますが、実際にはこれまでの「興味アリ」シリーズの続編であるため、本作を楽しむために既刊の読了がほぼ必須。また、この作家さんの描くTIでの作品は基本的に世界観が共有されており、他のシリーズのキャラクター達もちょくちょく登場しています。
プロローグとエピローグを除き、1話当りのページ数は16~28P(平均24P)と標準的なボリューム。エロ・シナリオ共に非常に密度が高く、プレッシャーの強さを備えているため、なかなかヘビィな読書感を味わえます。
【エロも含めて男女の攻防劇と相互依存が描かれる倒錯愛】
年下少女に玩具として弄ばれながらも、他の女性と肉体関係を持つこともあって、次第に増長してきた守山君を春日さんが徹底的に再調教なされるエピソードから今回はスタート。
二人の関係性が安定することは最終盤を除いて全くなく、理不尽な虐げに逆上して春日さんを無理矢理犯したり、脅迫したりしようとするものの、一枚上手の春日さんに尽く反撃を封じられていきます。
逆上して下卑た台詞を吐く一方で、春日さんに打擲された卑屈な態度を曝け出す守山君の矮小さと、状況を支配し、“玩具”である守山君の振る舞いを楽しむ春日さんの超越性とを対比させており、良くも悪くも歪みが強く、かつ荒涼とした雰囲気も感じさせます。
最終話で語られる過去のエピソードから、春日さんのこの態度はある意味で守山君への純粋な好意にも基づいていると考えられ、彼を徹底的に攻撃することによって得られる愉悦と共に、動揺し、激化し、縮小と肥大を繰り返す彼の心に自身が浸透していくことを春日さんは喜んでいるとも感じます。

双方が非常に激しい感情の持ち主であるため、ストーリーとしての滑らかさに欠ける突発性のある展開であったり、サブキャラとして登場した春日さんの姉との対立構図が終盤で不明確になったりと、一貫した長編ストーリーとして読むには苦しい面もありますが、元々連作の積み重ねを行うシリーズ作ですし、あとがきによるとこのシリーズはまだ続くそうなので、個人的にはさして大きな減点材料とは思っておりません。
【一筋縄でいかない春日さんの強烈なキャラクター】
基本的には春日さんが主役と言える作品ですが、その姉である桃花さんも登場し、主人公と関係を持ちます。これがメイン二人の関係性にも強く作用しますが、彼女もなかなか個性的な性格なので守山君は彼女との関係に逃げ込むことは出来ません。
前述した様に、作品の屋台骨を形成するのは春日さんの思惑や感情の描写であり、デモニッシュな微笑みを浮かべて主人公を無慈悲に扱ったり、あからさまに不機嫌な表情を浮かべたりと、主人公に対して君臨するドミナとしての魅力を備えています。
また、彼女は非常に“演技”の上手いキャラクターであり、守山君を罠にはめるため、従順で可愛らしい女の子を演じたり、主人公の暴力に敢えて無抵抗を演じたりしています。もっとも、この演技における発言が必ずしも“嘘”だけではなく、また普段の女王様的な言動も必ずしも全てが彼女の“真実”でないという、非常に複雑なキャラクターであることも彼女の魅力と言えるでしょう。

肢体描写に関しては、皮膚にうっすらと浮かぶ肋骨や腰骨のライン、モンゴロイド的な肉の付き方、リアル寄りの淫猥さのある性器描写等、比較的生々しさを重視する体パーツの描写となっているのも特徴でしょう。
これに対して、絵柄そのものはキャッチー寄りの二次元絵柄で、訴求層は広いタイプと感じますが、印象的なベタなども含めて、適度に重みや濃さがある作画であるため、端正でさっぱりとした絵柄をお求めな方にはやや不向きかなと感じます。
【変態カップルの両者の性癖が存分に出たエロシチュエーション】
自身とのセックスに夢中になることを春日さんは守山君に要求することもあって、エロ三昧の作品構築であることは間違いなく、その中で両者の“攻防”が描かれます。

もっとも、彼の攻勢が長続きすることも無く、春日さんにこっぴどく逆襲されて、情けない泣き顔と謝罪を強いられることになります。そういった際の春日さんの台詞回しは秀逸であり、侮蔑と罵詈と脅迫を織り交ぜて畳みかけるように主人公の内面を踏みにじる御業は流石の一言。
どちらかと言えば、1回戦を基本とするエロ展開であり、射精シーンは前穴、もしくはアナルにピストンしての中出し描写に集中させていますが、春日様の足コキや手コキがあったり、巨乳な桃花お姉ちゃんのパイズリがあったり、はたまた暴走中の守山君による膣内大量放尿があったりと、各キャラクター性に合わせたプレイを各話で投入する前戯パートも魅力的です。
透過図や断面図も含め、結合部見せ付け構図などの性器描写を多用するエロ作画であり、前述した様に生々しい淫猥さがある分、好みが分かれる可能性もある程のエロの濃さがあります。なお、お漏らしや白濁液ぶっかけなどの液汁表現も比較的多用される傾向にあります。
恋愛セックスに甘さや幸福感を求める方には不向きですし、あくまで攻防劇でもあるため凌辱的な一方的な欲望の叩きつけを望む方にも向いていない感があり、エロの趣向的にはかなり特殊であることには留意されたいですが、妙なトリップ感に支配されるのは大変面白いところです。
メインキャラ二人のキャラクター性を大いに輝かせた作劇であり、作品全体の構成における未消化部を今後解消していく必要性があるとはいえ、ラストまで緊張感を保って読ませてくれました。
個人的には、今年のエロ漫画単行本の中で五指に入る怪作と評したいところです。エッジの効いた作品を読みたい諸氏にお勧め!