
毎度のこととはいえ、巡洋艦最上と三隅の衝突事故が西川魯介先生の手によって大変
さて本日は、さめだ小判先生の『桃園学園男子寮にようこそっ!』(ワニマガジン社)のへたレビューです。タイトルから一瞬今は亡き桃園書房を思い出したのは僕だけでしょうかね。
スタイリッシュな絵柄を武器とする熱っぽいセックスシーンと若い男女の温かい恋愛ドラマが楽しめる作品ですよ。

1話当りのページ数は16~20P(平均18P弱)と平均を下回るボリューム。ただ、長編としての構成がしっかりとしており、エロの分量を確保しつつテンポ良く話を進めているため読書感は大変良好です。
【展開に緊張感のある長編恋愛ドラマ】
帯の煽り文には学園エロコメとありますが、コメディパートは話のよいアクセントになりながら量的には目立たず、むしろシリアス系のラブストーリーとしての印象が強くあります。
序盤で割合あっさりイチャイチャラブラブになった主人公と管理人さんの恋路に、中盤以降、主人公に思いを寄せるクラスメイトのメガネ委員長と管理人さんの昔の男が登場して波乱を引き起こします。

この“昔の男”の存在を序盤でほのめかしたり、一旦引いたと見せかけてもう一波乱を起こす中盤展開など、長編のプロットとしてよく練られているのも高評価の要因で、骨子としてはベタながら決して凡庸に映らない人間ドラマになっています。
表現としては主人公以外の男性と肉体関係を持つ“寝取られ”的な要素があるのは確かですが、そういった過去やそれが引き起こす恋路への障害に対し嫉妬し、戸惑い、葛藤する登場人物の人間的な姿こそが魅力であり、だからこそ過去の縛鎖を力強く振り切って迎えるハッピーエンドに嫌味のない幸福感が宿っています。
また寝取られ系の背徳感や三角関係のドロドロ感はかなり希薄であり、決して根っからの悪人ではない御曹司の描かれ方や主人公と管理人さんの関係を見守る姉御肌のサブヒロイン・チカちゃんの存在が陰湿感の少ないカラリとした雰囲気を作っているのも心地好いです。
初の長編への挑戦としてはストーリーに関して十分成功していると言って良いでしょう。
【快楽天系らしいスタイリッシュな絵柄が魅力】
序盤にちょっとだけそばかす娘のチカちゃんのエッチシーンもありますが、エロに絡むのは正ヒロインの管理人さんと主人公に横恋慕な委員長さん。

生き生きとした表情にこそ萌えっぽさは多少感じ取れるものの、宣伝で謳うような萌えエロ系絵柄とはかなり異なるスタイリッシュな漫画絵柄であり、肉体や情感の生々しさ、暗さや重さも兼ね備えるタイプ。
同じ快楽天系なら八十八良先生やめいびい先生、ムサシマル先生などと同じ方向性を持つ絵柄ですな。
前単行本『BEASTIE GIRLS』(ワニマガジン社)の時点で充分高質な絵柄でしたので、あまり気になりませんが、連載期間(特に序盤)に結構幅があるため話数が進むにつれて絵柄がますます端正さと官能性を増していく感があります。
【上品なエロスに包まれるラブラブエッチ】
各話で多少エロのボリューム感に幅はあるものの、ソツのない話運びによって実用的読書に耐えうる分量を毎話しっかりと確保しています。
ただし、そのあまり多くないページ数において多回戦を行ったり愛する故に丁寧な前戯に分量をある程度さいたりするため、特にピストン運動において少々駆け足気味であり、どうにも早漏なケースが多いのはマイナス要因。
その原因を考えてしまうと少々モヤモヤ感が生じそうですが、普段は真面目な管理人さんがいざエッチという時にはスイッチが入って積極的&トロトロになるまで性感を甘受する様子はエロの盛り上がりに一役買っています。

口から吐き出される熱い吐息や艶ややかな黒髪、小さく散りばめられた書き文字の嬌声など上品なエロ演出が素晴らしい魅力ですが、逆に言えばアへ顔とかマシンガンなエロ台詞といった派手な視覚的演出には乏しいことには注意が必要。
結合部魅せ付けの構図が多い割にあまり表現としての水準が高くなく、黒線がバシバシ入るキツメの修正もあって性器描写におる直接的な煩悩刺激力は弱め。中途半端な使用が残念な透過図や断面図にも魅力は薄く感じます。
中~大ゴマ主体で白濁液の量も現実的な中出しフィニッシュは、十分エロティックでよい抜き所ですが、もうちょっとエロの爆発力が欲しいのも確か。がっつり使える作品となるには何かもう一つエロの起爆剤が必要というのが素直な感想です。
緻密で端正な絵柄といい、ちょっと凝ったシナリオ展開といい、実に現在の快楽天系らしい作品です。
今後も是非長編作に積極的に挑戦して頂きたいなぁと思いました。強力な抜きツールをお求めですとちょっと苦しい面もありますが、恋愛ストーリーを軸に据えたエロ漫画作品が好きな方にはばっちりお勧めできる1作ですよ。