BlackEnd.jpg羽海野チカ先生の『3月のライオン』第5巻(白泉社)を読みました。いずれの棋士達も、厳しい勝負の世界の中で精神を削りつつ、何かの“安息”を求めているのですなぁ。
しかし、この作品、登場人物が何かを食べているシーンが多いのですが、これがまた美味しそうなんですなぁ、仏頂面で食べていても。このことは、『ハチミツとクローバー』でもそうでしたが。

さて本日は、くろ先生の『黒い羞艶~Black End~』(ジーウォーク)のへたレビューです。なお、先生の前単行本『正しい彼女の愛し方 Dolce Piatto』(同社刊)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
ひたすらにブルタールな凌辱を喉がひりつく様な乾燥した空気の中で切れ味鋭く描きだす猛烈にヘビィな作品集となっています。

収録作はいずれも読み切り短編で9作。単行本のおまけとして短編「昆蟲忌」の没テイクが収録されています。
1作当りのページ数は16~24P(平均20P弱)と標準的なボリュームで推移。分量こそ平均並みですが、読み手の心を鬱々とした状態に落とし込む読後感の悪さも含めて、読み応えは非常に重苦しく、なかなか読み進めるのは大変な1冊でした。

【冷たく重いハンマーの一撃の様なストーリー】
歪んではいながらも確たる信頼関係に基づく愛としてのSM劇と、無慈悲で荒涼としたレイプモノの二つの方向性を備える作家さんですが、今単行本ではその真っ黒に塗り潰された表紙絵が示す通りに後者の作風で貫徹。
1冊目2冊目でもこの系統の作品は、各々の単行本に極めて重い読み心地を付与していましたが、次々と罪のない女性が拘束され、監禁され、過酷な凌辱の末に精神と肉体をズタボロにされていく様を淡々と描いていく今単行本はこの作家さんの4冊の単行本の中で最も読み手を選ぶタイプでしょう。
BlackEnd1.jpg警察の捜査の怠慢と仕立て上げられた冤罪者を嘲笑いつつ、女性を監禁して徹底的な凌辱を加える男性(短編「監禁」)、AV撮影でのトラブルで起きた裁判で、いわゆる“セカンドレイプ”に晒される女性(短編「強姦」)、学校での凄惨なイジメと両親のネグレクトに精神をすり減らしていく少女が迎える末路(←参照 具体的に語らない故の悲哀 短編「ホームルーム」より)など、現実世界の何処かで起きている惨劇を、まるで無加工であるが如くに冷徹に提示するスタイルは、毎度謙虚なあとがきから窺えるこの作家さんの“大人しさ”の印象を消しさる程、極めて鋭利な切れ味を誇ります。
街角で、日常で、学校で、家庭で、平和な日常の、実はすぐ横に忍び寄っている悪意と狂気と無思慮と暴力の恐怖を描き出すスタイルは、その犯罪を称揚するでも賛美するでもなく、漫画としてのドラマ性すら排されて淡白に描かれる分、読み手の精神に逃げ道を許さず、その立つ場を激しく揺さぶってきます。
その作劇は、無慈悲で常識から乖離した暴力の前には、“心も体も壊れてしまう”という、極めて当り前でありながら特に凌辱エロでは読み手が意識を逸らしがちな事実を、ハンマーの一撃の如く重く静かに読み手の脳髄に叩きつけており、そのことで感じる“痛み”を何処にも持ち出し様のないことが読み手を更なる陰鬱の沼へと誘い込むことでしょう。
真っ暗でひたすらに陰鬱なストーリーの陰惨さは、オイスター先生に比肩するものがありますが、オイスター先生の作品には存在する凌辱劇としてのドラマティシズムは、この作品群の渇き切った話には存在せず、むしろ氏賀Y太(現・天童一斗)先生の『真・現代猟奇伝』(オークス)を想起させる1冊と感じました。

【ごく普通の女性と狂気の代弁者の邂逅】
各作品において犠牲者となるヒロインは、女子高生さんを含みつつ年齢層的にはハイティーン~20代前半程度が主軸。
現役アイドルという設定の女性キャラが短編「監禁」に登場していますが、その他のヒロインは、特段のキャラ属性を付与されていないごく普通の人物として描かれており、それ故に話の悲愴感が高まるタイプ。
cb2560bf.jpgまた、比較的イケメン風に描かれる男性の凌辱者達に関しては、暴虐を尽しながらも法的にも“物語的”にも断罪されることはなく、まるで日常の一コマの如く行為を続けていきます。ストーリーによる罰を与えられることのない彼らは(←参照 法廷での被害者への一言 短編「強姦」より)、社会・倫理的な賞罰の埒外にある存在であり、ありふれた狂気や無思慮、獣欲が彼らをそういった恐怖の執行者に仕立てあげてしまうこと自体が一種の恐ろしさを備えています。
この両者が邂逅してしまうことを悲劇として描きつつ、上述した様に、その出会いが日常のすぐ横に存在していることを、スピーディーな展開で読み手の意識を引き込む導入パートで示しているのは、シナリオ構築・キャラ立ての両面で巧いところ。
BlackEnd3.jpg女性キャラの肢体造形に関しては、スレンダーな体幹からすらりと伸びる四肢、真球に近い形状の巨乳、パイパンの股間と適度な肉付きのお尻・太股という体パーツを全ヒロインが装備しており、比較的ストレートなエロティックさのある体付きをしています(←参照 ボンテージを好む作家さんですが今回は少なめ 短編「猟辱」より)。
ややオールドスクールなアニメ絵柄のテイストを元来クドサの少ない漫画絵柄に盛り込んだ様な絵柄は、安定感がかなり強まってきており、等身高めの肢体造形にはよく合いますが、絵としてのキャッチーさは強くなく、必ずしも訴求層が広いタイプではないことに要留意。また、小ゴマを切り過ぎることも、絵柄に頼りない印象を与えてしまっている感があります。

【心と体の損壊・変容が痛々しい激ハードな凌辱絵巻】
作品のページ数は中の下クラスですが、突如として女性が惨劇に巻き込まれる形式の話が多いため、性描写の量は十分にあり、また犠牲者の精神を徐々に追い詰めていく展開を執拗に積み重ねていくため、非常に読み口はヘビィとなっています。
何ら躊躇なく肉体的な暴力を加え、犠牲者の精神的な抵抗力をへし折った後は、その肢体を腕力や各種のギミックで拘束し、一方的な抽送を性器や肛門、口腔に加えて精液を吐き出していくという流れになっており、肢体の生理的な反応を除けば性交の“快楽”がほとんど描かれないスタイルは非常に独特かつ陰惨。
集団暴行のシチュエーションを多く設けつつ、コンセントとコードを用いての電撃や、各種異物挿入、虫や水産物を使ったアブノーマルな異種姦、逆さ吊り、薬物投与などの苛烈な責めを多様に投入するのもこの作家さんの特長であり、基本的にかなり痛々しいので耐性が無い方には悪夢以外の何物でもない凌辱エロとなっています。
BlackEnd4.jpgまた、女性の体の損壊や変形、特に乳首と淫核の変形・損壊に対する執着が認められるのが性描写における一つの特徴であり、痛々しく引き伸ばされたそれらの性感帯は多少のグロテスクさも放っています(←参照 短編「監禁」より)。なお、四肢切断をエロ漫画作品で見たのはかなり久しぶりですなぁ。
肢体全体の描写を担う中~大ゴマと、局所のアップや表情の描写を行う小ゴマとで構成する手法は一般的ではありつつ、濡れ場においてもコマの数を多くし過ぎている感はあり、画面構成がゴチャっとしているのは相変わらずの難点かなと感じます。
基本的には多回戦仕様を徹底しており、趣向が合うならば抜き所は豊富な構成と言え、加えてオーラスのフィニッシュシーンでは、ここぞとばかりに1Pフルの大きな絵でインパクトを生んでいるのも実用面では加点材料と言えましょう。

近年稀に見るレベルのブルータル&ドライな凌辱系作品であり、この作家さんのカルト的な魅力というのを明確にした4冊目という印象があります。前単行本がかなり甘ラブ寄りだったので、見事なまでの攻撃力が更に目立っている感さえあります。
個人的には、無思慮なイジメのエスカレートが最悪の結末を迎える短編「ホームルーム」と、法廷の場でもなお、被告への嘲笑を止めない“悪人”の笑顔が何とも言えない短編「強姦」が特にショッキングでございました。
間違っても安易にお勧めできる作品ではありませんが、乾いたリアリズムが生む絶望の淵をのぞきこんでみたい諸氏は是非チェックされたし。