Lycoris.jpg石黒正数先生の『響子と父さん』(徳間書店)を読みました。『ネムルバカ』のスピンオフ的な作品ですが、お父さんの言動や細かい所作がいかにも“おっさん”らしくて“あるある”的な馴染み易さものがありますな。
それはともかく、折り込みチラシによると我らが安永航一郎先生の『青空にとおく酒浸り』の単行本が終に出ます!物凄く遅ぇよ!と思いつつも徳間書店グッジョブ!!

さて本日は、スミヤ先生の『Lycoris』(茜新社)のへたレビューです。前単行本は中東風でしたが、今回は和風な表紙ですな。
少年少女の感情の細泡を丁寧に掬い上げるストーリーテリングと互いの未成熟な肢体を絡め合うエモーショナルなセックス描写が光る1冊です。

収録作は、フルカラー掌編3作(4Por8P)と読み切り短編8作、および各作品の登場人物達のその後を優しく紡いでいく描き下ろし短編「エンドロール」(8P)。
フルカラー作品と描き下ろし後日談を除き、1作当りのページ数は15~28P(平均23P弱)と標準的なボリューム。作品の明暗に依らず、心に沁み込むような叙情性があるため、話の読み応え・エロの実用性が共に高められているプロダクションと言えるでしょう。

【独特の画風で描かれる思春期ガールズ】
成人男性とのセックスが描かれる作品も数本存在するものの、各作品は中○生程度の少年少女達の日常における性と愛を描き出しており、少年少女双方の感情に親しみが持てるタイプ。
Lycoris1.jpg絵柄自体はややソリッドでドライな印象もあるものの、豊かな感情表現を担う表情作りの良さとモノトーンの清冽さを印象付ける修飾の水準の高さがあるため、絵としての柔軟性が相応に高いタイプでもあります(←参照 短編「ラブリーゴースト」より)。とは言え、キャッチーネスを前面に押し出した類の絵柄ではなく、視覚的にヘビィな印象もあるので、特に実用面への影響の観点から万人向けとは言い難いのも確かでしょう。
輪郭線の硬軟など、キャラデザを微妙に調節して登場する少女達それぞれの可愛らしさ・美しさを引き出しており、従順な仔犬系ガールから高飛車娘、元気いっぱいの武道少女など、エロ漫画的な親和性を付与しつつも等身大なキャラ造形が施されています。
ロリ系としては比較的等身高めでちょいと儚げな細身ボディは写実寄りであり、ほんの少し膨らんだ胸やくびれのない腰回り、ほっそりとした手足に無毛地帯のお股など、大人の階段昇りかけな思春期ボディのパーツがそれぞれ瑞々しく描かれています。
なお、やはり思春期入りたての少年達には中性的な印象があり、ぶっきらぼうだったり気弱な性格だったりする彼らから発せられる芯の強い愛情も、恋愛モノとしての魅力をしっかりと高めています。

【感情が駆動し、感情を伝達する性交】
シナリオパートとエロシーンの雰囲気がよくかみ合っている分、作品の明暗の雰囲気がセックスシーンにおいても強固なため、エロへの集中し易さは読み手によって分かれる可能性があります。
互いの淫液と唾液が交換される前戯パート、小さい蜜壺に優しく抽送を繰り返す抽送パートにそれぞれ十分な尺を設けるエロ展開の安定感は申し分なく、大ゴマ~1Pフルで描かれる中出しフィニッシュも含めて抜き所を多く散りばめた複数ラウンド制をソツなくこなしています。
Lycoris2.jpg後述するように、性交が担う作劇上の役割は作品によって大きく異なるものの、登場人物達の陰陽の感情が肢体を衝き動かしており、上品さを維持しつつもエロとしてのアタックの強さを生み出しています。
男女の肌の密着感を重視する作画は(←参照 短編「ふたりはライバル」より)、触れ合う肌と性器、たどたどしい言葉の応酬などを介して、登場人物の感情が相手の心に伝わることを期するかのような意図を感じさせ、胡乱な物言いですが、応援したくなるような快楽の交感と感じます。
絵としての特性故か、性器描写に粘っこい淫猥さが欠けていますが、結合部描写を量的に抑え、性感に一気に艶めかしさを増す肢体とキュートに蕩けた表情にむしろ意識を集中させる作りになっているのは、作風にマッチすると共にエロ作画の方法論として一つの正解。
瑞々しい柔肌や紅潮した頬を、汗や涙、涎、そして各種淫液が濡らしていく様も実にエロティックであり、エロ演出面の穏やかさを絵としての煽情性の強さが補って余りあると言えます。

【現実と向かい合う幼い感情と性愛に宿る希望】
鬼束直先生や東山翔先生、水無月露葉先生などと並び、コミックLOの一つの主流を占める叙情派ロリエロ部門を代表する作家の一人であり、設定を選ばない繊細な作品構築が強い魅力。
Lycoris3.jpg性交に至ろうとしつつもコンドームが無いことに気付いた二人が行為を中断してスキンを買いに出かけるまでを描くLO未掲載作「condo」に示される非常に穏やかなシナリオ展開や、リリカルでありつつしっとりとした台詞回し・モノローグが作品の中核となる登場人物達の感情を印象深く読み手に伝達してきます(←参照 短編「なぞなぞ」より)。
学校、家庭、幼馴染といった少年少女達の小さな世界の中で表現される性や恋を知ったことの軽やかな高揚感や戸惑いは、極めて純粋で、甘酸っぱく、そしてささやかな“幸福”へと至る道筋を強く示してきます。
上述した通り、少女達の性愛を、男性の未成熟さへの欲望としての観点から描くのではなく、少女達の一種刹那的な情動の発露として描くスタイルであり、そのことが“少女漫画的”な作品の印象を形成していると考えます。
c3cb9f9b.jpgその一方で、少年少女達を温かく幸せな関係性に導く性愛は、少女の無邪気な奔放さによって時にしっぺ返し的な破滅をもたらし(短編「アタシノモノ」)、時に“大人”の現実的な強力さに敗れる哀しく非力な存在としても描かれます(←参照 短編「花火の灯り」より)。
そこには恋愛関係や辛い現実からの脱離を含め、“何にでも変われる”と感じる少年少女達の幼さ故の未来への展望と、やはり幼さ故の現実的な限界・コミニュケーションの不全性という相反する要素が溶け合っており、誰しもが経験するであろう思春期のアンビバレンツな感情を静謐に掘り当ててくる筆致は実に絶妙。
敷居は決して高くない、暗いだけでもない、されど深淵な性愛に戸惑い、苦しみ、そして喜び合いながらそれぞれの性と生を掴む人物達の姿そのものに強いドラマ性があり、それ故に各作品の数年後、つまりは登場人物達の“未来”において各員に祝福を捧げたエンドロールが大変素晴らしいと僕は思うのです。
リコリスの花言葉は、“悲しき別れ”であると同時に“再会”でもあるのです。

コミックLOの誌風を自家薬籠中のものとしつつ、少女エロスの描き方にオリジナリティーと入り込み易さを兼ね備えており、二読三読を誘う味わい深さが大変素敵。
個人的には、“幼さ”の希望と絶望を作中で見事に重ね合わせた短編「花火の灯り」と平安の世を舞台とした少年少女が苦難を乗り越える恋愛劇の短編「月の姫」が特にお気に入りでございます。