IslandChapterTwo.jpg幸村誠先生の『ヴィンランド・サガ』第8巻(講談社)を読みました。スヴェン王との会議が始まってからの目まぐるしい展開には驚かされましたなぁ。
新章に入ってすっかり魂が抜けてしまっているトルフィンですが、今後どうやって自身の生を取り戻していくのか楽しみです。あと、この作品は毎回ホント食べ物の描写が美味しそうです。

さて本日は、奇才・まぐろ帝國先生の『あいらんど~淫虐の章~』(茜新社)のへたレビューです。二月前に発売された第1巻に相当する『あいらんど~淫悦の章~』(同社刊)のへたレビューも是非併せてご参照下さい。
快楽全能的な妄想と狂気の現実が絡み合う混沌とした世界を、妖しく退廃的に描き上がる怪作です。

IslandChapterTwo1.jpg収録作は、孤島という閉じられた世界の中で性の快楽を貪りあう主人公の家族達+謎めいたメイドの姿をダーク&インモラルに描く長編「あいらんど」第10話~最終第18話(←参照 “一人”足りない肖像画 第11話「六郎と家族(一)」より)。
読み手を翻弄する急激な流れを展開するシナリオであるため、ストーリーの連続性を量り難いのではありますが、今単行本での人物関係や伏線、保たれる妖艶な雰囲気を理解するために前単行本は必読と言えます。
1話当りのページ数は16~25P(平均20P強)と標準的なボリュームですが、底の知れない幻想世界に読み手を引き込んでいくプログレッシブな構築性の妙があり、重厚な読書感が味わえます。

【作品のダークさとマッチするエロティックなヒロイン造形】
それぞれに番号が含まれている主人公の家族は、義母と5人の姉妹とメイドとなっており、何らかの思惑を以て主人公との交わりを求める彼女たちの姿が分量的にも作品の中心に据えられています。
なお、前単行本のラストで登場した女探偵(まぐろ帝國先生の零式時代からの持ちキャラ)も単行本の冒頭およびラストに登場し、エロシーンもありますが、期待を持たせる久しぶりの登場にもかかわらず、シナリオ展開上見事なまでに活躍しないという投げ放しぶりはむしろ痛快。
巫女であったはずの美里さんが今単行本ではシスターになっていたり、正ヒロイン?である瞳が舞台から消えていたりとヒロインの人物像が一定しないことも、読み手の不安感や疑心をいい意味で強く刺激しています。
IslandChapterTwo2.jpg貧乳ロリっ娘な二葉ちゃんから熟れた艶めかしい肢体を持つ義母・麗子、男勝りな性格の日焼け肌娘・樹に清楚な外見で色白な美里など、ヒロインの造形はバラエティに富んでおり、彼女達の清楚さや快活さ、純粋な可愛らしさが日常シーンで十二分に抽出されている分、濡れ場における妖艶さが対比的に増強されているのは見事(←参照 絡み合う女たち 第16話「宴」より)。
各人に十分なエロシーンが割り振られたこの豪華なヒロイン陣は、エロ漫画的なサービス精神であると同時に、そのような性的欲望の全てが充足される在り様を、妄念として切り捨てる痛烈な毒を生み出すための装置でもあることには留意が必要でしょう。
力強い描線を繊細に組み合わせ絵柄には適度な濃さや重さと快活さがあり、絵柄の安定感や背景や調度品の丁寧な描き込みなども含めて、非常に高い水準で安定しています。

【高い作画力に支えられるパワフルなセックス描写】
加速度的に変化していくシナリオラインということもあって、エロシーンが分割構成となることもあり、個々の濡れ場の尺が長いとは言い難いのは確かでしょう。
妖しい雰囲気の中繰り広げられる痴態は、逆に極めてハッピーな快楽肯定主義が貫ぬかれており、何か大事な理性や倫理が欠落したその異様さが背徳性を強く高めています。
IslandChapterTwo3.jpg主人公と瞳との恋愛セックスを、陰湿な凌辱と調教と言う真逆の姿としてリフレインさせることや(←参照 もう一つの“真実” 第15話「日記」より)、舞台から消えている瞳への姉妹による性的懲罰など、どす黒い性愛のカタチが上述の快楽世界の裏に隠されている構図もインモラル系の作劇として非常に良好と言えるでしょう。
集団凌辱やレズプレイ、触手エロ、姉妹とのハーレムエッチなどエロシチュの豊富さに加え、足コキ、フェラ、パイズリなどの前戯パートにアナルも多少する肉弾戦、浣腸などなど、主人公の欲望を満たすための行為もおそらく敢えて様々に取り揃えられています。メイド服やボンテージ、古風なセーラー服や和服、修道服などコスチューム的な要素が割合潤沢なのも、抜き的には素直に嬉しいところ。
しなやかに絡み合い激しくぶつかり合う肢体を力感のあるポージングとダイナミックなコマ割り、擬音やシズル感の付与などの濃密なエロ演出でエロのハードコアさをしっかりと下支えする高い技術は実にベテランらしいと言えます。
中出しに伴う絶頂と同時にヒロインがアナルから浣腸された水を噴出させたり、黄金水を勢いよく漏らしたりと派手な演出を施すこともあるフィニッシュシーンですが、射精シーンにエロ展開の最高潮を持って来るタイプでは決してなく、性器ドアップの中出しフィニッシュで抜きたい貴兄にはやや勧め難い印象はあります。
アナル、性器を含め局所描写は過剰にならない程度に淫らであり、万人受けするタイプですが、一部のキャラを除いて皆さん股間に黒く濃い茂みが広がっているのは多少評価が分かれるかもしれません。

【妄想と現実が交錯するミステリアスな空間】
斯様な性の狂乱が描かれるシナリオは、裏に隠された禍々しい狂気をチラつかせながら次々と移り変わっていく主人公の現実を目まぐるしく描いています。
IslandChapterTwo4.jpg時にヒロインたち自身が“台詞”を読み上げ(←参照 “ステージ”の上にて 第16話「宴」より)、現実だと思っていたシーンを次々と妄想の中に封じ込めていくトリッキーな作劇は、非常に幻惑的であり、得体の知れない不安感が漂っています。
生々しい感情と欲望、目前の事象に対する漠然とした不安感と肉の快楽によって維持させる平穏、そして虚構と現実が、有機性と知性とを以て複雑に侵食し合う世界の退廃的な美しさと恐怖感は凄まじいの一言。
ヒロインの口から語れる“現在”という認識の不確実さなども含め、やや嫌味なほどにインテリジェンスが先走る傾向にありますが、この作家さんの毒気のある皮肉と批判精神が自身にまで向けられているため、その衒学的要素も無意味なものとして封殺する分、決して頭でっかちにならないのも○。
謎めいた陰謀や各種の伏線、不確定な登場人物達の人物像などに対する解決をほとんど放棄し、全てを曖昧模糊としたファンタジーの泥中に塗り込めるストーリーであるため、サスペンスものとしては話が破綻していると言っても過言ではないですが、そういった理屈による“正しい解釈”を冷笑と共に撥ね退けるだけの威圧感が作品に備わっているのも確かでしょう。
「わけがわからない」という感想こそあってしかるべきな作品であり、多層的な世界構築に与えられる理屈の典型から大きく乖離した混沌性こそが、純然たるファンタジーの暴力と恐怖を生み出しています。
皮肉的な無限の快楽と染み出してくる毒、存在の不安が綯い交ぜになったドゥーミィでゴシカルな作品世界を堪能したいチャレンジャーな諸兄に是非お勧めしたい作品です。

おそらくは、まぐろ帝國先生が描きたいものを存分に描いてくれた作品ではないかと思っており、ファンとしては大変嬉しく思っています。勿論、エロはともかく話の内容的にコマーシャルなタイプとはあまり言えないでしょう。
この強烈な変わり種である作品に対して、このへたレビューにおいて送りたいことは、激賞でも酷評でもなく、ましてや作中やあとがきに登場する哲学的概念を用いたサブカル的解釈ではありません。
その威風堂々たる異端ぶりに、「まぐろ帝國先生、ほんとぶっ飛んでるなぁ」と一言呟くだけで、この作品に対する“評価”は十分なのではないかと僕は思います。