
我々が当たり前に楽しんでいるものが新鮮な驚きと、我々と同じような幸福感をもたらす展開が心地よく感じられます。
さて本日は、田沼雄一郎先生の『EXACTLY!!』(ワニマガジン社)のへたレビューです。なお、先生の前単行本『FAT BOY FAIRYTALE』(コアマガジン)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
日常の中にある性愛のささやかな幸福を柔和なストーリーテリングと迫力のエロ描写で紡ぐ作品集となっています。
収録作はいずれも読み切り形式の短編で計13作。1作当りのページ数は16~18P(平均16P強)と控えめながらコンビニ誌初出としては標準的な部類。とは言え、軽妙さを保ちつつも適度にじっくりと読ませる作りであり、エロのボリューム的な満足感も適度にあるバランスの良い作品構築を示しています。
【日常を生きる人たちへの素朴で前向きな人生讃歌】
コンビニ誌ではアブノーマル色を排して比較的オーソドックスな作品構築を示す作家さんですが、分かり易いラブコメ・エロコメであったりストレートな快楽全能主義を押し通したりすることはなく、独特の魅力を備えた性愛の物語を描く技量を有しています。
今単行本でも、魅力的なヒロインが積極的にセックスを誘惑してきて~的な棚ボタ感であったり、エロ漫画的な“ファンタジー”を有したり要素を盛り込んではいますが、市井に生きる“普通の人々”の日常の中での性愛を優しい視線で描き出していることが大きな特徴であると感じます。
仕事のストレスをため込んでいる女性上司とその部下(短編「EXACTLY!!」)、不器用な性格でヒキコモリがちなスケベ女性とビザ宅配員(短編「姦禁デリバリー」)、スーパーのマニュアル仕事に追われる男女(短編「ポイントカードは忘れずに❤」)、ネカフェでの宿泊が常態化している派遣社員の男女(短編「ネカフェじぷしー」)等々、登場人物達は何かと大変な社会の中で苦労しながらも生きている人物達です。

このテーマ性を決して上段に構えることはなく、軽妙な雰囲気の中で“生と性の喜び”を心地よく打ち出していく筆致は素晴らしく、ウハウハ棚ボタ展開のエロコメ作品でも社会の「下流」を生きる人達の物語でも、等しくポジティブさを感じさせる描き方になっている分、素直な共感を呼び込むことが可能になっています。
恋愛ストーリーとしてのラブラブ感を分かり易く前面に押し出すタイプではありませんが、各作品のラストはいずれもハッピーエンドであり、登場人物達とそれに共感を覚える読み手に対する素朴な人生の応援歌となるようなまとめ方となっています。
【男性を導く豊満ボディの美女達】
ハイティーン級と思しき美少女キャラクターも複数名登場していますが、基本的には女子大生~30代程度の美熟女さんの大人の女性が主力であり、年齢層は比較的高め。

エッチなお姉さんキャラクターや純情彼女さんといった割合にオーソドックスなキャラクターも目立ちますが、それらをエロコメ的な展開の中の位置づけとして安易に扱うこともなく、主人公の男性に対して何らかの人生への活力や示唆を与える存在として描いていることは、前述の人生讃歌としてのストーリーテリングの魅力を方向付けています。
なお、男性キャラクターについても、同じく社会の中で生きている当たり前の人々という描き方は概ね共通しており、彼らなりの苦労や疲労感というものをあっさりと描き出しつつ、それらが性愛を通じて相応に解消されていくことで男性読者のシンパシーを呼び込んでいると感じます。

アニメ/エロゲー絵柄的なキャッチーネスもある程度は盛り込みつつ、素朴な漫画絵柄の雰囲気や、劇画的な重さ・濃さも同居する絵柄は独特なスタイルであり、時に妖艶な艶っぽさを、時にコミカルな可愛らしさを表現する闊達さを備えています。表紙絵は丁寧な塗りで魅力的ですが、結果的に中身のモノクロ絵柄と多少雰囲気が異なることには留意されたし。
【じっとり淫液に濡れた肢体をガツガツ貪る和姦エロ】
各作品のページ数が多いとは言えないため、エロシーンも長尺というには分量が足りませんが、とは言えコンビニ誌初出としては標準的な分量を濡れ場に用意しており、セックスにおける解放感の良さとヒロインの肉感の強さもあって体感的な満腹感は相応にあると言えるでしょう。
おねショタ的なシチュエーションや、コスプレ的なプレイ、羞恥系プレイなど、エロシチューションにある程度の多彩さはありますが、和姦エロであることは共通しており、同時に素直な感情や欲望、恋心を発揮することの喜びを基調としてセックスを描いています。
比較的前戯パートに該当するパートを長めに取るエロシーン構成であり、豊満ボディをじっとり揉んだり、フェラなどの奉仕プレイを楽しんだりで双方の興奮が高まり、更なる性的快感を求めていく高揚を打ち出すことに注力した描写。汗や淫液がじっとりと女体を濡らしていくエロティックな描写も魅力的と言えるでしょう。

小ゴマでも決して絵のインパクトが低下しないテクニック、肢体の存在感を強力に打ち出しつつ単発ではなく、描写の連続性を維持するコマ同士の連結を図る大ゴマの活かし方など、ベテランらしい巧さを発揮しつつ、熱っぽく蕩ける表情描写やパワフルな結合部見せつけ構図、じっとりと女体を濡らす液汁描写など、基本的なエロ演出で彩り、総体としての描写に臭気や体温感など、適度な生々しさ・現実感を入れ込む調整も見事。
男女の体躯の密着感を十分にアピールし、快感に激しく身悶えする女体と漏れ出る嬌声を活写する抽挿パートは、絶頂にビクビクと体を反応させながら大量の白濁液を中出しorぶっかけされて両者KOのダイナミックなフィニッシュシーンで〆られており、射精カタルシスが一気に解消される解放感が魅力的です。
読み口の良さと実用性の高さは王道的な魅力をしっかりと維持しつつ、登場人物の善良さや直向きさが素直に称揚され、日常の中で幸福を得る描き方は心地よい読書感を与えてくれると言えるでしょう。
個人的には、関西弁太眉元気娘の素直な感情の吐露が魅力的な短編「ANGEL ARRIVE!」と、少年時代の憧れであった駄菓子屋のお姉さんと再会し、彼女に大人の階段を教えて貰う短編「駄菓子屋の奥」が特にお気に入りでございます。