
言われてみれば、以前は隅っこに追いやられていた、しっとり海苔の直巻きタイプは復権してますよねぇ。
さて本日は、鶴田文学先生の『カクレコト』(茜新社)のへたレビューです。先生の前単行本『ココロご褒美』(コアマガジン)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
多彩な雰囲気、シチュエーションの中で思春期の欲望や好奇心が素直に発揮される作品集となっています。

フルカラー作品である掌編「キマリゴト」(4P)を除き、1話・作当りのページ数は16~24P(平均21P強)と標準的なボリュームで安定。ストーリーとしての読み応えはそれほど強くない一方で、適度に読ませる作りではあり、エロとシナリオのバランスが良い構築であると評し得るでしょう。
【若さ故の特権としての感情や欲望の素直な発現】
明るいコメディタイプからほんのりダークな作品まで、陰陽様々な雰囲気の作品を描く作家さんですが、完全にギャグ路線になったり、悲劇性を有する凌辱エロになったりすることはなく、作品の空気は様々であっても穏やかさを保つことは今単行本でも共通。
お互いに異性を意識した幼馴染同士の初エッチ(短編「ハジメテワ」等)、お兄ちゃんラブな妹との近親ラブ(短編「ナシクズシ」等)といったポピュラーな題材もあれば、男性教師と不倫関係にある女生徒が主人公に口止めHを迫って~(短編「キョウハク」)といった複雑なシチュエーションもあれば、窓にハマってしまったヒロインに野郎連中がムラムラして~という非常にエロまっしぐらな設定(短編「トラワレノ」)も存在しています。
いずれの作品においても共通するのは、思春期である男女達の素直な欲望や好奇心、恋心が発現されるということであり、場合によっては性欲の暴走によるレイプめいたものになってしまうとは言え、その感情や欲望の素直な発露を、思春期であるからこその美徳として描いている点でしょう。その点において、若さとその純粋さに対する大人の憧憬を感じ取ることもでき、作品の雰囲気の良さに貢献しています。

また、性衝動や恋愛感情の高まりの結果として性行為を描き、それらが登場人物達にとって一つの大きな行動として位置付けしつつ、彼ら彼女らの本質が保たれるゆったりとしたラストが物語るように、性行為をすべてに幸福をもたらす全能なモノとして描かないスタンスもエロ漫画的ご都合主義と一線を隔す魅力になっています。
全体的にドラマ性やテーマ性が強い訳ではなく、ストーリー展開そのものに強い魅力があるとも言い難いですが、雰囲気頼りになることなく、登場人物の描き方・見せ方の上手さが光るタイプと感じます。
【健康的な肉感の黒髪思春期ガール】
連作ではメインヒロインである妹さんの恋敵として、女子大生級のお姉さんが登場しエロシーンでも活躍?していますが、基本的にはミドル~ハイティーン級の制服ガールズで統一されたヒロイン陣となっています。
ドM男子向け雑誌「Girls for M」を初出とする短編「クモノイト」では、お兄ちゃんを性的に支配するちょいヤンデレ気味でドSな妹さんという非常に方向性が明確なキャラクターを登場させていますが、どちらかと言えばコテコテのキャラ属性に依存することなく、ヒロインを“普通の女の子”として描く傾向にあります。
根暗ガールやお兄ちゃんラブな妹キャラ、気さくな仲の幼馴染ヒロイン等、分かり易いキャラ属性は適度に盛り込むことも多いものの、彼女達の感情の動きや言動に無理矢理感がなく、自然に受け入れられるものとして描いているのが一つ大きなポイントでしょう。

ごく一部のヒロインを除いて、黒髪で統一されているのもこのモンゴロイドボディとの相性も良く、健康的な色香を生じさせています。なお、制服を着用しているヒロインが多く、私服も派手さのない控えめなタイプであり、ここらもヒロインの等身大な造形に関係しているでしょう。
中堅に位置する作家さんですが、絵柄は現在も変化を続けており、近作では描線がよりさっぱりと綺麗にまとまった印象があり、元々の絵の温かい温度感や適度な乱れを保持しつつ、近作ではキャッチーさを増した感があります。
【日常の延長にある幸福感や倒錯性】
エロに至るまでの過程、もしくは悪戯やスキンシップといった性的ではあるがエロシーンの前段階の描写に相応の尺を設けて雰囲気の高まりを描くスタイルであるため、長尺のエロシーンとは言い難いものの標準的な分量を確保しています。
窓に女の子がハマってしまったのをいいことにナイスヒップな彼女にヤリたい放題といういわゆる“壁尻”的なエロにストレートなシチュエーションがあったり、ドSな妹ヒロインに射精コントロールされてしまう倒錯的なシチュエーションがあったりしますが、基本的には和姦エロであり、性的な行為への恥ずかしさや直向きな恋愛感情が表現されるシチュエーションがメイン。
濡れ場が作品全体から遊離せず、導入パートでの登場人物達の心情から地続きなものとして描いている点は美点であり、日常を想起させる場所や香り、服装などを丁寧にチョイスすることで幸福感であったり、場合によっては倒錯感であったりの雰囲気を形成しているのも良い点であると感じます。
前述した通りに、触り合いや性器の見せ合い、ソフトな愛撫などの行為に加え、クンニやフェラ、手コキなどの前戯を投入する前戯パートは十分長い尺を以て、双方の興奮の高まりを丁寧に描いており、作品によっては抽挿パートを量的に圧迫することもあるものの、ドキドキ感の形成という意味で効果的。

恋愛エッチを中心として、男女の肢体の密着感を重視する傾向にあり、アングルによっては男性の体躯を透明化するといった手法も用いていますが、結合部見せつけ構図に加えて、相手の体や唇を求めているという積極性を打ち出すことでフィニッシュまでの盛り上がりを形成していると感じます。
エロシチュにしてもシナリオにしても、短編「クモノイト」を除けば特定の方向性に強く踏み込むスタイルではなく、比較的大人しいエロ演出も含めてキャッチーさには欠けますが、全体を包み込む穏やかさや日常感が大きな魅力となっています。
個人的には、幼馴染ヒロインのピュアな可愛らしさが導入部でもエロシーンでも魅力的だった短編「オトシゴロ」が最愛でございます。