現在、ちょうどエロ漫画新刊発売の谷間となっておりまして、この隙?に進みの悪い同人誌原稿(EroManga Lovers Vol.3用)をやってもよいのですが、今回は久しぶりに作家評を書いてみます。
前回の作家評カテゴリは雨部ヨシキ先生でしたが、約半年ぶりの作家さん特集となりますね。
さて今回は、いのまる先生の作品群について書かせて頂きます。なお、先生の最新単行本『Camellia』(ティーアイネット)のへたレビュー等と併せてご参照いただければと思います。

InomaruWorks1.jpg いのまる先生はティーアイネットの月刊コミックMujinを中心に活躍されている作家さんであり、既刊5冊はいずれも同社レーベルから出版されています。
2007年に発売された初単行本『Indecent』(←参照)以外は、当サイトでは全てレビューしておりますので、読者諸氏にはお馴染みかもしれません。
コミックMujinの誌風が、徐々に(どちらかと言えば陽性な方向に)変化していく中で、ラブコメ系にも凌辱系にも対応できる作家さんであり、短編・中編から1冊フルでの長編までいずれもこなせる力量がある方です。

 いのまる先生の作品を語る上では、初期作から現在まで一貫して“ヒロインの魅力”を活かした作品構築をしており、かつその魅力の“性質”にブレがないという点を考える必要があります。
a85d9f2e.jpgこれまでの単行本のレビューの際、毎回の如く書いてきましたが、黒髪ロングでキリリとした釣り目の強気でクールな美女・美少女というキャラクターデザインは業界屈指の水準を以て、この作家さんの得意とするところ(←参照 長編「華比良生徒会長」第2話, 『いたずら専用 華比良生徒会長』p49, ティーアイネット, 2010)。
強気と言っても、男性を見下したり、サディスティックな欲望を持つといったタイプではなく、“凛とした”という形容がおそらくは最も正しく、その分、「華比良生徒会長」シリーズの会長さんや「絵里子先生」シリーズの女教師さん等、男性に対する“デレ”が光るタイプのヒロインも存在します。
 そういった女性キャラクターが不正や悪徳と対決するという構図を多用するのもこの作家さんの特徴であり、校長の不正・セクハラと華比良会長との闘争が描かれる「華比良生徒会長」シリーズ、義母とその手下に乗っ取られた家庭の中で一人抵抗を続ける少女を描く中編「お義母さんの教育的指導」、そして看守の不当な圧力に対して女囚がその矜持を保ち続けて勝利する中編「女囚つばき」等は、その代表例。
明るいエロコメディや微笑ましい青春ラブコメも描かれる作家さんなのですが、この“対決”の構図の中で、凌辱・調教系統の作劇となることが多くなっています。

 導入パートにおいてヒロインの精神的・身体的な強さを明示した上で、その“強さ”を圧倒的な性的快楽で歪め、屈従させるという展開は凌辱エロでは王道と言えるのですが、いのまる先生のクール美女達はその展開に好適なキャラクター造形と言えます。
このヒロインのキャラクター性の変容における、“落差”がはっきりとしている分、単純な行為の過激性に走らずとも十分な嗜虐性をエロの雰囲気に発生させているのが実用面での一つのアドバンテージ。
InomaruWorks3.jpg 凛とした女性の表情が羞恥や陶酔に染め上げられる様や、拒絶と受容が徐々に逆転していく台詞回しといった、割合に地味なエロ演出をきっちり武器に仕立てており(←参照 中編「お義母さんの教育的指導」第1話, 『Sex education』p19, ティーアイネット, 2009)、無論、結合部描写といったストレートな演出も用いながら、ある意味でヒロインの心身の美しさを損傷させないエロ展開としています。
この心身の魅力を損傷させないという点は重要なポイントであり、後述するように、各作品で凌辱行為に加担する男性側が勝利することはほとんど無く、いかに辱められ、絶望的な状況下に追い込まれようとも、ヒロイン達は矜持を失うことはなく、機を掴んで“逆転”へと転じていくことを可能にしています。
InomaruWorks4.jpg また、女体の美しさをエロ作画の全面に押し出しているのも特に実用面での長所であり、コマぶち抜き絵や2P見開きといったTI勢のお家芸であるダイナミックなエロ作画の中で、しなやかな肢体と重量感たっぷりのロケット巨乳や桃尻を強調する構図を多用しています(←参照 このおっぱい描写の存在感たるや 中編「絵里子先生のお仕事」第1話, 『恥ずかし女』p22, ティーアイネット, 2008)。

 さて、そのような作劇・エロ作画における特長を保ちつつも、初期作から現在にかけて変化している要素は、作中での男性キャラクターが果たす役割です。
端的に言ってしまうと、強気ヒロインの魅力が確然と固まっているのに対し、シナリオの能動的な駆動因としての男性キャラクターの役割は低下する傾向にあります。
InomaruWorks5.jpg 子供である故に愛する女性を権力の鎖から解き放てない主人公が、成長し、彼女を取り戻すことを決意する短編「小夜ノ事」(←参照 『Indecent』p138, ティーアイネット, 2007)や、家庭の経済的苦境もあってストリップ・売春をさせられる少女への想いを貫く少年を描く短編「束縛の館」など、1冊目の短編群ではヒロインと男性主人公が対等な立場になろうと努力する様が描かれています。
2冊目の中心となる「絵里子先生」シリーズに関しても、事故による記憶喪失を悪い男に付け込まれ、悪質な調教を施される状況から彼女を救い出すのは、恋人である少年の役割であり、やや荒っぽい展開ながらも颯爽と登場して絵里子先生を救い出す最終話には爽快さがありました。
 男性主人公の“価値”が著しく低下するのは、3冊目の中編「お義母さんの教育的指導」で顕著であり、家庭に監禁され凌辱されるヒロインに好意を抱く少年が登場するものの、彼は悪役側である義母側の勢力とそれに反抗するヒロイン側の間で翻弄されるに過ぎず、これといって決定的な役割を果たしません。
4冊目の「華比良生徒会長」シリーズにおいては、ヒロインがその“強さ”を保つ精神的拠り所として主人公の少年は存在するものの、彼女の大逆転が描かれる終盤での活躍はかなり限定的ですし、5冊目の中編「女囚さそり」では、女性刑務所という設定上、男性キャラクターはある意味で全てヒロインにとっての敵となっています。
InomaruWorks6.jpg 「華比良生徒会長」シリーズや中編「女囚つばき」では、彼女達自身のプライドや精神的な強靭さ、人を引き付ける魅力によってこそ悪徳への勝利をつかみ取るのであり、かつ自身が行ったことに責任を果たした上で味方となる人物も救い、自身の生き方を取り戻すというヒロイン達の行動を、痺れるようなカッコよさを以て描き出しています(←参照 全校生徒の前で全てを打ち明ける会長 長編「華比良生徒会長」最終話, 『いたずら専用 華比良生徒会長』p203, ティーアイネット, 2010)。
それは、上述した通りに、彼女達の精神が陰湿な快楽調教に決して屈しない強さを保っていたことを高らかに賛美する描き方でもあるでしょう。

 いのまる先生の描く強気美人達は、単に男性の嗜虐欲を引き出すための存在ではなく、胡乱なことを言えば、高嶺に凛と咲く花であり、男を惹き付けてやまない“魔性の女”と言えます。
それは、支配欲・征服欲を甚く喚起させながらも、彼女達をその意志に反して簒奪することは敵わず、彼女達が微笑んだ相手(主人公)にのみ、恋愛感情を以て独占することが許される存在です。
InomaruWorks7.jpg中編「女囚つばき」で、ヒロインへの歪んだ愛と憎を滾らせる看守・八沼がその最たるキャラクターですが(←参照 中編「女囚つばき」第3話, 『Camellia』p76, ティーアイネット, 2011)、彼女達を邪に支配しようとする男性は狂うか、死ぬか、はたまた彼女達の従僕となるかといった末路を迎えます。それは、求めても求め得ぬ女性の“魔性”という側面を強調する描き方と評し得るでしょう。
そして、愛を貫き、不正を正すためならば、自身が傷つくことは勿論、そういった敗れゆく悪漢達に憐憫の情を抱くことなく、凛とあり続けるのがいのまる先生の描く女性キャラクターの大きな魅力とも言えるでしょう。

と、まぁ、主にヒロインのキャラクター性の魅力を中心にこれまでの作品を考察してみましたが、如何だったでしょうか。
現在Mujinで連載中の「学園風俗」は、ヒロインのキャラクター性の魅力はそのままに、男性主人公の能動性という意味では多少路線が違いますし、ヘビィな凌辱系とも異なるテイストなので、6冊目以降も作風は変わっていくと思いますが、これからも釣り目でクールでスレンダー巨乳なヒロインの痴態を楽しませて頂ければと思っております。

いのまる先生とそのファンに愛と敬意を込めて
一エロ漫画愛好家 へどばん拝