FruitsGettinWet.jpg村岡ユウ先生の『馬鹿者のすべて』第2巻(集英社)を読みました。あぁ、何か読んでいてちょっと黒沢映画の『生きる』を思い出しましたね、今回。
社会の中で“個”の力はどうしても小さくて、思う通りにいかないことは数多あるわけですが、その中で宇治田が“何か”を職場に残せたのは本当に立派なことですよね。


さて本日は、白石なぎさ先生の『濡れる果実』(一水社)のへたレビューです。なお、先生の前単行本『犯れる彼女』(同社刊)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
青春期の登場人物達の矮小さや弱さを貪欲に取り込んだ泥臭い作劇と体温・体臭感に満ちたセックス描写で魅せる作品集となっています。

FruitsGettinWet1.jpg収録作は、図書室で春を鬻ぐ少女とその相方で受付の少女とを描く「図書室は放課後の娼館」シリーズ第4話・最終第5話(←参照 シリーズ最終第5話「春子の“春”は・・・」より)、および短編8作。
描き下ろしのシリーズ最終話も含め、1話・作当りのページ数は16~18P(平均18P弱)と、書店売り誌としてはボリューム感は弱め。とは言え、妙に読み手の胸に絡みつくシナリオであり、ヘビィに構えた作品が揃っているとも評せます。

【チアフルなラブコメからビターな青春溜息物語まで】
前単行本において、比較的オーソドックスな明るく楽しいラブコメディ路線を取り込んだ影響は今単行本でもあり、短編「校内SEX禁止令!」や「デクの詩」などの作品はその類の作品。
とは言え、男性キャラのほんのりポエティックなモノローグによって紡ぎ出される青春模様を、泥臭い感情描写とむせ返るような青臭さのする恋愛讃歌とを併せて描き出すという、エロ漫画業界においてかなり異色のスタイルを今単行本でも堅持しています。
若い男女、特に男性側の人間的な小ささ・脆弱さを敢えて描き出すことを躊躇しないため、何処となく身につまされる部分があり、淡々と語られる独特の作劇のテンポが、そのビターな心持ちからパッと明るく開放してくれるポイントを与えてくれないという、キリキリとしたもどかしさが良い意味でも悪い意味でも大きな特徴でしょう。
FruitsGettinWet2.jpgこの思春期故の迷いである苦悩から、幸福の方向へと歩み出すのか、その悩みを胸にくすぶらせたままの生を送るのかは作品によって違いがあり、前者ならば昭和テイスト満載なド直球のドラマティシズムに則って恋愛感情を描出(←参照 短編「姉の香は悲しみの衣」より)。
どちらにしても地味で、取っ付きやすさに欠けるストーリーテリングではありますが、ハッピーエンドでも決して軽く浮ついた感じはせず、また「図書館」シリーズ最終話の様にビターな余韻を読み手の胸に受け付ける類の作品もなかなかに深みのある作品構築になっています。
昭和臭をたっぷりと振り撒きつつも、思いっきりSOUND HORIZONの『エリュシオン』のオマージュが織り込まれた短編「ねえ、パパ・・・」の様な作品があったり、某長門にそっくりな美少女キャラを登場させてみたりと、コンテンポラリーなネタも用いるというかなり独特のセンスが合うか合わないかは評価を大きく左右することでしょう。

【適度にもっちりした体躯の並~巨乳美少女がメイン】
元々は母モノ主体でデビューした作家さんであったものの、近作ではヒロインの年齢層をグッと引き下げ、今単行本でもその主力はミドル~ハイティーン級美少女と20代前半の綺麗なお姉さん達。
いわゆるラブコメディ系統においては、ヒロインのキャラクター性を重視する作劇スタイルという正道を取るものの、男性の心情描写を作劇の中核とするスタイルであるため、キャッチーで多彩なヒロインのキャラ造形を期待するのは避けるべきでしょう。
時にファム・ファタルであり、時には青春の後悔の象徴でもある彼女達は、男性にとって容易には理解しえない存在として描かれており、登場人物達の幸福への模索を描く上では好適なキャラ造形でしょう。
いかにもモンゴロイドといった感じの比較的ふっくらした肉付きの体幹に並~巨乳の乳房が載る女体は、割合に現実的な造形であり、ある程度のデフォルメ感で絵柄にキャッチーさを添加しつつも同時に体温や体臭を感じさせる生々しさを強く意識させるタイプ。
FruitsGettinWet3.jpgなお、古風なセーラー服を愛好する作家さんであり、女子高生キャラならばスパッツ体操服着用な短編「デクの詩」の元気娘を除いてほぼ標準装備(←参照 短編「彼女ふるさと便」より)。
絵柄に添加されたある程度のキャッチーネスが安定するようになり、特にヒロイン側の可愛らしさ・美しさがよく引き立つようになった一方、一部の男性キャラの野暮ったい感じはそのままの部分もあり、多少の減点材料となる可能性はあります。

【肢体の重量感や体温感が詰まった熱情的エロ描写】
各作品のページ数がそこまで多くなく、またシナリオパートを当然重視する作風であるため、たっぷりとした濡れ場の分量を求める方にはやや不向きではあります。
しかしながら、上述した女体の生々しいエロスを煽情性の中核に据え、互いの感情が剥き出しになる熱情的で貪欲な性行為を迫力豊かに描き出す分、抜きツールとしての評価は低いわけでもありません。
これまた朴訥とした台詞回しと含みのあるモノローグによって性行為の描写に、抜きの為の煽情性以外の様々な叙情性を付与しているのは変わらぬ特徴であり、絵の勢いがある分、話と絵が互いによく噛み合っていると感じるか、台詞が億劫と感じるかは読み手の好みに依るでしょう。
FruitsGettinWet4.jpg男女双方の体の存在感をきっちり残し、肌と肌とが重なる行為としてセックスを描いているのもこの作家さんらしい美点であり、その中で行為の動きに合わせた肢体の躍動感や緊張感をきっちり演出する作画の上手さは評価したい点(←参照 短編「君がいる風景」より)。
ただし、絵柄の地の古めかしさと呼応してか、性器表現や官能の表情の描写はややオールドスクールに過ぎる感もあって、肢体の各パーツからの直接的なエロさを期待するのは難しいところ。
また、中コマ~1Pフルで描かれるフィニッシュシーンは、じっくりとしたエロ展開の締めとしてパワフルではあるものの、特に演出面に関して一層の盛り上がりは欲しいところではあります。ただ、例えば中出しされる子宮の透過図の投入など、強度の高いエロ演出を組み込もうとする意欲はよく感じ取れました。

個人的には“一体何処へ行こうとしているのか”という期待と不安のある作家さんですが、この青臭くてビターで、でも妙に堂々とした力強さのある読み口は非常にユニークであり、白石なぎさ作品でしか味わうことのできないものでしょう。
陽光穏やかな春の日に、桜の下で空を見上げる一人の青年の姿が印象的な「図書室は放課後の娼館」シリーズ最終話と、テーマは“弱者の傷の舐め合い”とあとがきで言い切っただけのことはある秀作短編「姉の香は悲しみの衣」がフェイバリット。