TwoFacesOfAliceThird.jpgTVアニメ版『探偵オペラ ミルキィホームズ 第2幕』第8話「愛おしいよね」を観ました。な、なんと、コーデリアさんに幻惑のトイズが!他人さえ妄想に引き込む(ただし現実逃避に限る)デリアさんは相変わらず人間離れしてます。
石流さんの熱い励ましもある程度影響したのでしょうが、どん底に落ちても夢に向かって前向きに頑張ろうとするミルキィ達の姿は本当に素敵だな、頑張って欲しいなと感じます。

 さて本日は、海野螢先生の『アリスの二つの顔』下巻(松文館)のへたレビューです。なお、先生の前単行本『アリスの二つの顔』中巻(同社刊)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
技巧的な作画・演出に裏打ちされたシリーズ最終巻に相応しい高揚感のあるドラマ性が魅力となっています。

TwoFacesOfAliceThird1.jpg 収録作は、漫画の神様・アリスに助けられつつ商業誌での連載を好評の内にスタートさせた駆け出しエロ漫画家の主人公の元に今度は彼の漫画のファンだという少年が現れて~な長編「アリスの二つの顔」第19話~最終28話(←参照 この子が後々重要なファクターに 長編第19話「願望の国のアリス」より)。
言うまでもなく、同作の上巻および中巻を読んでいないとキャラクター設定やストーリーの肝心な部分が分からないため、今単行本を楽しむ上では前2巻の読了は必須です。
 1話当りのページ数は最終話のみ26Pであり、他のエピソードは20Pで中の下クラスの分量で固定。分量的には控えめながら十分なアグレッシブさのあるエロと、テーマ性を十全に活かした作劇の強固な存在感で魅せる、読み応え十分な作品構築となっています。

【容姿がそっくりな貧ショーヒロインが今回のメイン】
 上巻では美人女性編集長の艶姿があったり、中巻では主人公のライバルとなる女性漫画家を登場させていたりするものの、今回は基本的に主人公と漫画の神様・アリス、アリスにそっくりの容姿の女性編集者・ありさとの関係性の描写に集中。
容姿が瓜二つであるアリスとありさの関係は、現実世界と想像の世界が入り混じる本作における両者の曖昧な境界を象徴するものであり、特にアリスの“正体”が情感豊かに描き出される最終話は、未知の宇宙線が主人公に叶えてくれた“虚構”の世界に感謝と別離を示すものとなっています。
 エロシーンに登場するのも、とある例外を除いて基本的にはこの二人(と言うべきかは怪しいが)であり、貧乳・ショートヘア・生えかけなアンダーヘアとこの作家さん恒例の肢体造形となっています。
TwoFacesOfAliceThird2.jpg なお、主人公の男性漫画家の作品や好みとリンクする形式でコスプレ要素が多いのが今単行本の特徴であり、ランドセルを背負ってみたり(←参照 長編第21話「子供の国のアリス」より)、郷愁を誘う正統派セーラー服やブルマ体操服を着させてみたりと、設定上キャラデザインが固定されていることによる視覚的な多彩さの減衰を一定程度回避。
 作中の人物である主人公が描いた漫画がそのまま読者が読む形式ので“漫画”(つまりこの単行本)になっていたりと、作画面での読者の現実、作品世界の現実、そして作品世界での虚構が入り混じる状況をよく再現しているのも特筆すべき点でしょう。
 絵柄的にはベテラン作家故に強く安定しており、表紙絵と同水準でクオリティで楽しめます。今単行本派これまで以上に登場人物の喜怒哀楽の表現が生き生きしていた感があるのも◎。

【程良くアグレッシブながら分量的には不足気味のエロシーン】
 上巻・中巻に引き続き、ストーリー展開に分量を圧迫されるエロシーンは長尺とは言い難く、エピソードによっては前戯パートのみで終わったり、射精シーンが存在しなかったりと、実用面に関して親切とは言い難い濡れ場ではあります。
とは言え、実はこの挿入寸止め展開が後々への伏線へとなっていたり、ある意味で描かないことが作中の現実での状況とリンクしたりするため、作品全体の評価にとってマイナスだけの要素ではないでしょう。
 前述したコスプレHという要素を除けば、エロ展開は割合シンプルにまとめられており、ピストン運動の尺に欠けるパターンが多いものの、ヒロインの肢体をまさぐる愛撫でヒロインの肢体が徐々に解きほぐされていく描写などである程度興奮の“タメ”を設けてるのは有難いところ。
TwoFacesOfAliceThird3.jpg抽送パートに移行する場合には、既に愛液を十分潤滑した秘所に挿入して、小さなバストを揉みながら抽送を繰り返していき、きゅっと瞳を閉じた表情の緊張と快感に支配されていく肢体の弛緩とを両立させることで、派手さこそ無いものの、徐々に煽情性を積み上げていきます(←参照 長編第23話「規制の国のアリス」より)。
 この作家さんらしいコマの外の余白を多めに使う特殊な画面構成故に、ぎっちり描き込んだ密度の高さとは無縁であるものの、結合部のアップ構図から肢体全体の描写への切り替えや、体の動きといった絵の流れをスムーズに追わせる手法は高い技術力の証左。
 いわゆるフィニッシュシーンが用意されないこともあるものの、ある場合には結合部見せ付け構図で絶頂を迎えるヒロインの膣内に中出しを敢行する様を大ゴマで描き出しており、全体的に実用性が高いとは言い難い一方で、エロ展開終盤での盛り上げの強さはしっかり意図されているのも確かでしょう。

【作中の漫画と作品としての漫画の双方から放たれる想い】
 現実と虚構が入り混じるメタフィクションというストーリーにおいて、上述のアリスとありさの関係と共に今回テーマとなっているのは、やはり「現実と虚構」の認識が重要である創作物規制の問題。
主人公の漫画がやり玉に挙げられ、雑誌自体も休刊へと追い込まれる状況は、いわゆる“松文館事件”と都条例問題、そして大きな懸念材料である児童ポルノ法改正問題をミックスしたものであり、それに何とか対応した作品を描こうとする主人公の苦悩も含め、フィクションでありながら確たるリアリズムを以てそのテーマを読み手に訴えかけてきます。
TwoFacesOfAliceThird4.jpg 主人公の漫画家としての努力、出版社の送り手としての努力、そして何より彼らによって世に送り出された作品を愛する読者によって(←参照 長編第27話「現実の国のアリス」より)、主人公達が逆境を跳ね返す展開は十二分なドラマ性を有しており、いわゆる“マンガ家漫画”として創作することを強く肯定する頼もしさは間違いなく美点。
 個人的には、この作家さんの主張と相容れない考えもあり、ある種の搦め手によって勝利をもぎ取る展開にご都合主義を感じることに加え、規制派と言われる人達を“悪役”に矮小化して問題を解消する描き方には強く反発を覚えるのは確かです。
とは言え、作品の評価にその辺りの意見の違いはあまり影響していません。最終巻までを読み、僕は本作がこの出版社で、この作家さんにより出されたことに大きな価値を感じます。僕は叫んで欲しかったのです。理不尽な裁判とその後も延々と続いた締めつけで苦しんだこの出版社に、自分のコダワリ故に規制問題との絡みで苦労したこの作家さんに叫んで欲しかったのです。それも生の声ではなく、漫画という創作物を通じて“俺たちは何も悪くないんだ!”と叫んで欲しかったのです。それが叶ったことは何と幸福なことでしょう。
 勝利の大団円は、しかして本作のラストではありません。鏡像の如く共に存在し続ける現実と虚構を祝福し、人の作りだした虚構が現実の人の生を善きものにしてくれることを高らかに謳うことで迎えるラストは、創作物を愛する諸兄の胸に熱く優しい何かを湧き上がらせてくれるものと確証しております。

 “現実と虚構の曖昧な境界”はこの作家さんのこれまでの作品でも多く用いられたモチーフでしたが、こういった方向性に持っていったのは、意外でもあり、また同時に非常に納得の出来るものでもありました。
抜きの高低は当ブログのレビューでは絶対不可欠な評価要素であるため、辛い評も書いてきましたし、それを撤回する気も微塵もないですが、完結を心から祝すると共に、ストーリー重視なエロ漫画をお求めな諸氏に強く推薦したい1冊でございます。