どうも管理人のへどばんです。仕事多忙(主に長期出張の多さ)につき、更新頻度が寂しい状況が続いており、管理人としてお詫び申し上げます。単行本レビューも溜まってしまっているのですが、本日は「エロ漫画の構造と多様性に関する私的考察」というタイトルの考察記事シリーズの第2回を書きたいと思います。これもなかなか時間を要するので、ちゃんと完結させられるのか不安ですが、機会を見つけて不定期ながらも連載を続けていきたいと考えております。単行本レビューを期待されている方には申し訳ありませんが、前回書きました通りに、レビュアーとして私なりのけじめを付けるための活動ですので、お付き合い願えれば幸いでございます。

 さて、前回第1回目の記事では「作品を規定するセックスへの阻害要因と促進要因」のタイトルで、エロ漫画作品の文脈においてセックスへの“阻害要因”と“促進要因”が非常に重要であり、作品の構造そのものを強く規定するものであると位置付けました。登場するキャラクターがそれぞれ有する“阻害要因”と“促進要因”の対立・比較と、後者の優越が作品のストーリーの中でセックスを可能にし、性描写のある漫画というエロ漫画作品を形成すると論じたわけです。
 前回のラストで触れましたが、このセックスへの“阻害要因”と“促進要因”はランダムに選択されて作中に配置されるものではなく、登場するキャラクターの設定や属性と密接に関連するものです。今回はその点について掘り下げつつ、エロ漫画の多様性の源泉について考察します。
【エロ漫画作品におけるヒロインの重要性】
 エロ漫画作品においては、男性キャラクターにも、ストーリー性の重要性があったり、例えばショタキャラなどの様にそのキャラクター属性が性描写の実用性に貢献したりと、作品の魅力や印象を大きく作用する面があります。とは言え、男性読者が女性キャラクターの痴態を鑑賞するというエロ漫画の主たる役割を考慮すれば、ヒロイン(女性キャラクター)がより重要な要素であることは間違いないでしょう。もちろん、巨乳であるとか、ぽっちゃり体型であるとか、メガネキャラであるとか、ヒロインの容姿・外見は読み手の嗜好との合致の有無において、実用性に非常に大きな影響を与える部分ですが、本論ではその点についてはあまり触れません。
 拙著『EroManga Lovers Vol.2』においては、作品の要素として重要なヒロインに着目し、キャラクターの構造を“役割”“設定”“属性”という3項目に分けて、エロ漫画作品中での意味付けや多様性について論じました。その序文において、筆者は“キャラクターを構成する要素を明確化し、特定のキャラクター要素と特定のストーリー・エロシチュエーションとを結び付けた、いわゆる“定番”を脈々と形成し続けてきたこと“が、エロ漫画に登場するキャラクターを魅力的なものとし、ジャンルの多様性を支えてきたと論じています。この、“特定のキャラクター要素と特定のストーリー・エロシチュエーション”とを結び付けるものこそが、前述したセックスへの“阻害要因”と“促進要因”であるとも言えるでしょう。

【キャラクターと密接に結び付く“阻害要因”と“促進要因”】
 無論、特定の設定・属性を持つヒロインを作中に配置したからと言って、一義的に特定のストーリーが発生するわけではありませんが、その一方で、ある種のパターンが生じているのも確かでしょう。
 例えば、エロ漫画ジャンルにおいてポピュラーな青春ラブコメディに登場する、思春期後半の女の子について考えてみましょう(下図参照)。このタイプのヒロインであれば、セックスへの“阻害要因”として、初体験への恐怖や不安、異性への照れやプライド、自身の容姿へのコンプレックス等が、“促進要因”としては、異性への恋愛感情、性的好奇心、性的快感への希求等が代表的なものとして挙げることが可能でしょう。
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 エロ漫画における作劇は、これらのキャラクターから想起されやすい“阻害要因”と“促進要因”のいずれを取捨選択し、各要素にどの程度の強度を発揮させるかで大きく決定されると言えると筆者は考えています。例えば、前述の例であれば、“促進要因”としての異性への恋愛感情を特に強調するのであれば甘い雰囲気のラブストーリーとしての趣向が明確になりますし、性的快感への希望を前面に押し出すのであればあっけらかんとしたエロコメディ的な雰囲気が高まるでしょう。
 他のタイプのヒロイン設定においても、例えば妹などの近親キャラクターであれば、禁忌の審判に対する恐怖や自制(阻害要因)、人妻キャラクターであれば家庭という束縛からの離脱欲求(促進要因)など、高い頻度で用いられるセックスへの“阻害要因”および“促進要因”が存在しており、キャラクターと密接に結び付いたそれらの要因を如何に選択し、提示するかということが、設定に規定された一定のフレームの中で作劇の多様性を形成していると筆者は主張します。
このキャラクターとセックスへの“阻害要因”および“促進要因”の連関は、作者および読者が属する社会・文化のコミュニティを強く反映したものであると同時に、エロ漫画を含めた様々な創作物の中で反復されることで強化・普遍化してきたものです。キャラクターとそれと結びつくキャラクターとセックスへの“阻害要因”・“促進要因”の定型を蓄積し、また新たなキャラクター属性の“開発”による新たな定型の加増や、社会情勢・文化の変遷による定型の変化が、エロ漫画の多様性のベースにあると評し得ます。

【エロ漫画におけるキャラクターとコンテクストの不可分性】
 現在のエロ漫画ジャンルにおける一つ大きな特性は、キャラクター設定に由来するセックスへの“阻害要因”および“促進要因”と、ストーリーを含めた作品のコンテクストが分離不可能なものとなっていることだと筆者は考えています。
現在においても、エロ漫画のストーリー性がかつて(90年代前半~半ば)に比して乏しくなっていると考えてはいませんが、1作・1話当りのページ数がさほど増加していない一方で、エロシーンの分量の比重が増し、ストーリーを描写する分量が減少した印象はあります。この状況下において、漫画としての“展開”を魅力的なものとして維持するためには、上述したセックスへの“阻害要因”と“促進要因”の対立・比較と、後者の優越という骨組みをより明確化・重点化する必要があったと思われます。その中で、特にヒロインのキャラクター性と“阻害要因”と“促進要因”はより強固に結び付けられ、シナリオやエロシチュエーションを大きく規定し、作品のコンテクストと不可分なものとなったと考えています。

【なぜエロ漫画は二次創作されにくいか】
以前、karimikarimiさんが「エロ漫画のキャラクタはなぜ二次創作されにくいのか」という記事を書いておられており、その考察中における“仮説3”に筆者の考え方は近いのですが、単に雛形的であるか否かに関わらず、上述したセックスへの“阻害要因”と“促進要因”を介したキャラクターとコンテクストの不可分性が原因ではないかと筆者は考えます。
筆者が想定しているのは“性的描写を含む二次創作”ですが、“一般向け”のアニメ作品やゲーム作品の女性キャラクターを用いて二次創作が行われる場合には、新たにセックスへの“阻害要因”と“促進要因”を付与する必要が生じます。一部の例外を除けば、題材となる一般向け作品においては作中でのセックスは発生して(描写されて)おらず、セックスに至る文脈はオリジナルにおいて形成されていません。このため、一旦キャラクターを元のコンテクストから分離した上で、セックスへの“阻害要因”と“促進要因”を付与した新たなコンテクストに乗せることでエロ同人作品は構築されます(下図参照)。この新たに創作される“阻害要因”と“促進要因”は、もちろん、オリジナルの設定やストーリーに大きく影響されたものですが、そこに“元ネタ”との整合性があるか否かや逆に意外性があるかなどが、二次創作における面白みの一つと言えるでしょう。
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これに対し、エロ漫画作品の場合においては、既にセックスを可能とする文脈が形成されており、セックスへの“阻害要因”と“促進要因”が明示されています。もちろん、新たなコンテクストの形成は不可能では決してありませんが、前述した様にキャラクターと強い結び付きが確立され、作中で明確化された“阻害要因”と“促進要因”を新たなものに置換することは難しいことであると考えられます。

【反復利用が困難なセックスへの“阻害要因”と“促進要因”】
 また、このキャラクター性と“阻害要因”・“促進要因”の強固な結び付きは、エロ漫画ジャンルにおいて複数の単行本にまたがるレベルの長編作が少ない一因であるとも考えています。非常に似た性質のものとして、いわゆる少女漫画における、恋愛の進展に対する“阻害要因”および“促進要因”があると筆者は考えており、この場合では特にキャラクターが内的葛藤を重ねながら、恋愛関係の進展への“阻害要因”および“促進要因”の対立を丹念に描いていくことに一つの魅力があると考えています。少女漫画においては、両者の対立がなかなか解決しないことで、もどかしさを発生させ、ストーリーの維持に大きく貢献していると思うのですが、エロ漫画においては基本的にセックスを1話内で実現させなければならないため、“阻害要因”と“促進要因”の対立関係に何らかの決着が常に求められているという特性があります。もちろん、“セックスの実現”ということ以外のコンテクストを形成し、長編作としてストーリー性を形成するエロ漫画作品は沢山ありますが、キャラクター性とセックスへの“阻害要因”・“促進要因”との強固な結び付き、およびそのことがストーリー・エロシチュエーションを大きく規定することはエロ漫画作品そのものの性質に現状大きく影響していると評し得ます。

 本論では、キャラクターを出発点として考察していますが、エロ漫画において特に重要な要素であるエロシチュエーションが特定の設定のキャラクター、およびそれと関連する“阻害要因”と“促進要因”を要請するという逆の考え方もできると考えます。次回では、このエロシチュエーションの重要性について、エロ漫画の多様性から考察してみたいと思います。

来月10月の仕事のスケジュールが大変なことになっているので、次が何時になるか何とも言えませんが、今後とも本シリーズにお付き合い願えれば幸いです。
では、次回のレビューにて

へどばん拝