どうも管理人のへどばんです。ここのところ、平日のレビューの更新頻度が下がりっ放しで大変申し訳ありません。
昨年の秋から本業の方で責任のあるポストになったこともあり、この状況が改善される見込みはあまりなく、正直、ブログを何時まで続けられるのかも不安に覚える面はあります。
勿論、突然更新停止といったことで迷惑をおかけすることはありませんし、そもそも好きでやっていることですので細々とでも続けようとは思っておりますが、何時“終り”が来ても大丈夫な様に自分の活動に関して何らかの総括を付けておくことは必要だとも考えております。
ラストまで淡々と単行本レビューを重ねていくこともこのブログらしいかなぁと思いますが、同時にこれまで同人誌等でやってきましたエロ漫画評論の方で一つまとめをしたいと考えております。
 僕がやっていることが、批評・評論の水準に達しているのかについてはあまり自信はありませんが、レビューを通しても“エロ漫画ジャンルの今”に触れ続けた身として、エロ漫画評論に何らかの貢献が出来るとは自負しております。
そういった考えを元に、「エロ漫画の構造と多様性に関する私的考察」という題目で自分なりの考えをシリーズとして書き残していこうと思いました。言ってみれば、評論を志した自分にとっての“卒業論文”のようなものでしょうか。無論、これを書き上げたら“卒業”という訳ではございませんので、まぁ、一区切りと捉えて頂ければ幸いです。
 さて、僕が一応やってきたエロ漫画評論(らしきもの)の根本的な土台は“エロ漫画は豊かな要素を含む多様なジャンルである”という認識に尽きます。
これは、「ポルノとして先鋭化した現在のエロ漫画はその多様性を喪失した」という永山薫氏の考察に対する反撥でもあるのですが、同時にエロ漫画における“多様性”とはそもそも何であるかという点への疑問および追求でもあります。
『エロマンガ・スタディーズ』の章立てから分かる通り、永山氏などが論じる多様性の構成要素は、例えば凌辱モノやラブコメといったエロ漫画内のサブジャンルです。そういったカテゴライズはエロ漫画を論じる上で、勿論非常に有用であり、それぞれに対する考察は十分な説得力を有していますが、ジャンル全体の多様性を論じるにあたって“サブジャンル”という構成要素は極めて不明瞭・人為的であり、それをもって多様性の高低を判断することは定量的にも定性的にもそもそも無理であると筆者は考えています。
そのため、拙著『EroManga Lovers』の第1~3巻においては、サブジャンルを扱うことを敢えて避け、その下位要素であるキャラクターや演出表現などにスポットを当て、サブジャンルを横断して共通する構成要素を論じることを目的とした訳です(それが成功したか否かは読者の皆様の判断に委ねますが)。
ただ、“パーツ”でしかない構成要素を列挙するだけでも、逆にサブジャンルという便利なフレームだけを眺めるだけでも、エロ漫画というジャンルを考察するには不十分でしょう。そこで、本シリーズにおいては、先ず両者の中間的な位置にある、1本単位の作品の構成から論じてみようと思います。

【エロ漫画作品に共通する構造】

32e61ab5.jpg 極めて当り前のことと思われるかもしれませんが、左図に示した通り、エロ漫画作品は大まかに言えば導入パート→エロシーン→まとめパート(オチ)という形式で構成されています。なお、カラーページの配置の関係等でエロシーンの一部が冒頭に来たり、エロシーンの間にシナリオ描写があったりというケースも多いですが、この骨組みの大枠には影響しません。
エロシーンは言わずもがなですが、導入パートとまとめパートの主たる役割は、前者が登場人物の関係性を描写し、セックスへの導入を果たすこと、後者は性行為およびそれがもたらした人間関係の変化への意義付けを為すことと考えています。短編1作であれば、このまとめパートでシナリオ全体に決着がつけられますし、中~長編作のような続きモノでは1エピソードの性行為で生じた影響を描写した上で、次のエピソードの導入パートの基礎を形成してつなぎを形成します。
概して、導入パートは比較的描写量が確保される一方、まとめパートは1Pもしくはそれ以下の分量となる傾向にありますが、エロ漫画の根幹である性描写に意味付けをし、またそれを読み手がどう認識・評価する上でまとめパートは導入パートと同様に重要と言えます。終盤まで同じような展開であっても、例えば凌辱エロからのバットエンドか逆転勝利エンドかといった様に、オチが異なると性行為の“効果”の強弱は変化し、作品全体の印象を左右するということは頻度高く認められることです。
ここで重要な点は、エロ漫画の主たる構成要素であるエロシーンは、登場人物の関係性を変化させるものであり、導入パートとまとめパートは変化の前後をそれぞれ描くことで、セックスの“効果・意味”を明示する役割を果たしています。以前、“セックス描写のシナリオ構築における役割についての一考察”という記事を書いたことがありますが、当該記事内で論じた関係性の変容の大まかなパターン分けは、この基本的な構成によって生じていると今になって捉え直しています。
さて、それではこの基本的な作品構成において、いずれが多様性の源泉であるかということを考えてみましょう。

【セックスに対する促進要因と阻害要因】

 筆者は前述した構成の内、導入パートが作品全体を規定し、そこでのバラエティがエロ漫画作品の多様性を生み出していると考えています。
もちろん、エロシーンが非常に重要な構成要素であることは疑い様のないことです。とは言え、エロシーンに描かれる各種の具体的な行為は作品全体を規定することはありません。例えば、拘束プレイがあることや、放尿シーンがあること、パイズリが充実していることなど、作品を特徴づけるものであり、セールスポイントにもなりますが、それ単体で作品全体、そして読者のストーリーへの印象を左右するものではありません。
全く同様の行為が同様の順番で描かれていた場合でも、導入パートとまとめパートによって示される登場人物の関係性が異なれば、それらの性行為が生じさせる変容とその意義は全く異なり、読者の印象、および実用性も大きく変化することになるからです。胡乱な例となりますが、カップルの男女が悪戯心で行う露出プレイと、凌辱エロとして女性に強いる露出プレイでは意味合いや嗜好が異なるといった様なことです。
 作品の方向性によって導入パートにおいて描かれる内容は様々ですが、ほとんどの作品の導入パートに共通する要素は、セックスの実現に対する“阻害要因”と“促進要因”であると考えています。
阻害要因の例を上げれば、例えば貞操感や倫理観、恐怖心、照れや恥かしさといった要素を含むでディスコミュニケーション等が挙げられますし、促進要因の例としては、性欲や性的好奇心、各種報酬(金銭・出世等)、実現手段としての暴力・姦計などが挙げられます。
エロ漫画はセックス描写がある作品ですので、当然、促進要因は阻害要因を排除することでエロシーンへと導入されることとなります。例を上げれば、初心な少年少女が恥ずかしがりながらも(阻害要因)、互いの恋愛感情を確認して(促進要因)初めてのセックスに至る青春ラブコメディ、強く凛々しい女騎士が自らの純潔を守り敵を打ち破ろうとするものの(阻害要因)、獣欲に満ちた悪漢の姦計により(促進要因)籠絡されるファンタジー凌辱エロといった形式になります。
これらの阻害要因・促進要因は登場人物のいずれか片方に集約されているケースもありますし、欠く登場人物が両方の要因を抱えているケースもあります。また、例えば少女性愛に対する社会的な「抑圧」の様に、登場人物を取り巻くより大きな枠組みから与えられるケースも存在すると言えます。

【両要因の対立構造が作品全体を規定する】

 すなわち、導入パートはキャラクターの描写を行うことによって彼ら彼女らが持つ性行為に対する阻害要因と促進要因を明示し、両者のせめぎ合いと促進要因の優越を表現することでエロシーンへの導入を可能としています。(下図参照)
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この二つの要因がどのように対立するかということは、登場人物同士の関係性を描くということに他なりませんし、エロシーンを含めたシナリオ全体を規定していると筆者は主張したいわけです。
ただ、この阻害要因と促進要因の対立は挿入パートで完結するものでは必ずしもありません。むしろ、両者の対立はエロシーンの性行為を介して増幅されることで、導入パートで提示された関係性(≒阻害要因と促進要因の対立)の変容をより明確にしていくとも言えます。恋愛モノにおいて、体を重ねることで高まっていく異性への愛おしさ(促進要因の増幅)の表現や、凌辱エロにおいて行為が激しさを増すことで高まる恐怖感(阻害要因の増幅)などがそれの一例と言えます。
エロ漫画は“漫画”である以上、その軽重は別としても、理由や展開を排除してセックスを描くことはできません。セックスの実現に対する阻害要因と促進要因は、エロ漫画というジャンルの基本的な構成を形作る上で必要不可欠なものであり、エロシチュエーションを形成するものであり、そしてサブジャンルの基礎を為すものと評し得ます。

【キャラクター性と密接に関連する両要因】
 さて、このセックスに対する阻害要因と促進要因ですが、前述した通りに基本的には登場人物に付随するものです。
お気付きになった方もおられるかもしれませんが、登場人物の設定(キャラクター性)と両要因は密接に関連しています。人妻キャラクターならば阻害要因としての貞操感・倫理観、ロリータキャラクターであれば促進要因としての性的好奇心や無邪気さ(無知さ)といったものがある種のパターンとして用意されています
勿論、そういったステレオタイプなリンケージを敢えて変化させたキャラクター描写も多く認められるわけですが、それはむしろ、キャラクターと両要因の密接な関連性が標準的なものとして認識されている故に魅力を持てるとも言えるでしょう。
次回では、この阻害要因と促進要因を付随させる登場人物の作品構築上の役割、特にヒロインの果たす役割を考察し、エロ漫画作品の多様性について論じてみようと考えています。

単行本レビューが最優先ということもありまして、本シリーズは不定期連載となりますが、よろしければ今後もお付き合いくださいませ。
では、次回のレビューにて