Emergence 濱田浩輔先生の『はねバド!』第8巻(講談社)を読みました。敵の失策を嘲笑う羽咲さん、もはや主人公とは思えない程の“化け物”と化しているのですが、それと戦う相手の賢明さ、彼女を化け物ではなく一人の仲間・スポーツ選手として共に歩もうとする周囲の人物達が清々しく描けているのが非常に面白いところ。
特に、この“化け物”と対峙しながら自分たちを見失わなかった重盛さんの敢闘に拍手を送りたいですね。

  さて本日は、新堂エル先生の『変身』(ワニマガジン社)の遅延へたレビューです。なお、先生の前単行本『純愛イレギュラーズ』(ティーアイネット)のへたレビュー等もよろしければ併せてご参照下さい。
人の弱さと悪意が吹きすさぶ乾いた世界を強烈な筆致で描き出す、凶悪な快楽と絶望に包まれた少女の転落劇となっています。

Emergence1  収録作は、地味で他者から孤立しがちな自分を変えたいと進学を期に化粧を学び、友人との交際を覚えてポジティブに歩み出したヒロインであったが、偶然悪い男に捕まってしまい、自身の“変身”願望もあって薬物中毒とそれに伴う破滅へと突き進んでいくことになるタイトル長編「変身」全7話(←参照 転落の始まり 同長編第1話より)。
1話当りのページ数は28~40P(平均34P強)とかなり多く、長編作としてのボリュームは十二分。題材も相まって強烈にヘビィな読書感であり、またゴリゴリと押しまくる攻撃的なエロ描写もあってエロシーンの存在感も際立っています。

【純粋であるが故の弱さ・愚かしさを待ち受ける悪意】
  本作は女子校生ヒロイン・咲の平凡な日常から地獄への転落劇を執拗と評して良い過酷さと圧力を以て描き出す作品であり、彼女の周辺の人物が移り変わりっても彼女の心情をストーリーの屋台骨とすることもあって、主要な女性キャラクターは彼女に絞った構成。
  新堂エル先生の作品においては、迎える結果がどうであれ、自らが求め、自らが得ることのできる性的快楽を、確たる意志を以てモチベーションとするキャラクターが登場することもありますが、本作の主人公にはそういった“強さ”はなく、徹底的に彼女の“弱さ”“愚かしさ”が描かれます。
セックスの快楽は彼女の転落に大きく寄与はしていますが、性的快楽そのものは彼女の目的ではあまりなく、「つまらない自分」から脱却したいという変身願望、そして脱することのできない薬物への中毒が主たる原因であり、自分を騙し利用する男への“恋心”や自らを蝕む薬物を“安定剤”として縋り続け、己を欺き、軽蔑しながら抜け出せない泥沼へと呑み込まれていくことになります。
Emergence2  ヒロインの変容(堕落)を視覚的に物語る要素として、肌を焼き、髪を脱色し、入れ墨を入れ、乳首や性器へのピアッシングをし、派手で露出度の高い衣装など、堕ちものとして分かり易い意匠を中盤以降取り込んでおり、地味で大人しかった時との大きな変化はストーリーの進展と相まって印象的(←参照 長編第6話より)。
ピアッシングや過酷な売春、薬物セックス、そして望まぬ妊娠や堕胎などによって、端正な肢体は徐々に汚されていきますし、彼女の美貌を敢えて汚す様なエロ演出が後述する様に多いですが、スレンダーボディに程好い量感のバストとヒップ、しなやかな肢体を組み合わせたボディデザインは彼女の性的な魅力の高さを生み出しています。
  元々作画密度は高い作家さんですが、本作は背景なども含めて非常に丁寧な画面の構築が為されており、後述する過剰・過激なエロ演出の高い密度なども併せ、重苦しいストーリーに更に重さを重ねる様な情報量の多い絵が連続していきます。

【強烈なエロ演出を重ねる半狂乱の痴態の凄まじさと悲痛さ】
  各話に十分なページ数があるため、エロシーンのボリュームは十二分に厚く、また薬物の使用などもあってヒロイン・咲が強烈な反応を示すこともあり、質的な満腹感も強い性描写であるのは確か。
  平凡な日常から転落していくにあたり、薬物セックスや薬物を購入し、大好きな「彼氏」に貢ぐための売春、不幸の連鎖の中で生じる近親凌辱など、破滅的なシチュエーションのみで構成されており、そういった行為を繰り返していく中で自らの精神をすり減らし、また学校や家庭、「恋人」といった周囲の社会・人間と切り離されていくストーリーであるため、背徳感や倒錯性もありつつ、それを更に上回る悲愴感が生み出されており、これを実用的読書に供せるかについては、人を大いに選ぶと評し得るでしょう。
主人公・咲が、主体的に快楽を貪欲に求めていく、いい意味での?“ビッチ”キャラクターではなく、周囲の思惑や薬物の誘惑に振り回されて、セックスをせざるを得なくなっていること、それ故に好き放題の無茶な行為や侮蔑をその心身に浴びせられるという状況も前述の悲劇性を高める要因でしょう。
Emergence3  好き勝手に体を使われ、薬物と性交の快楽が入り混じる中でヒロインが浸る感覚は強烈で異常なものであり、各種淫液まみれで半ば意識が飛んだ呆け顔や、強烈に反応するアへ顔、言葉にならない嬌声や半狂乱でまくしたてるエロ台詞、最奥まで肉棒を捻じ込まれる断面図描写、口から泡を吹いたり奇声を発したりな異常な反応など(←参照 世界がキラキラしても自分は・・・? 長編第4話より)、過剰・過激なエロ演出・描写を伴ったファナティックな痴態を曝け出すことになります。
男性側はヒロインのことを性的に利用することしか概ね考えておらず、相手の体を考慮しないハードなプレイを強要することでエロの攻撃性を生み出すことに加え、キスや愛撫などのねちっこさでヒロインの美しさを存分に舐る嗜虐性なども形成しており、連続性を活かしたコマ使いなども含め、描写の緩急・高密さを十分に形成。
  強烈なアクメにアへ顔と絶叫を浮かべ、白濁液を注ぎ込まれながら、涙や鼻水、黄金水を派手に垂れ流すブザマな絶頂痴態を曝け出し、“使われた”後に放置され、中も外も精液に汚されたまま茫然とした表情でぐったりと弛緩した肢体が横たわる様子は、1回1回が破滅へのカウントダウンを為していると感じます。

【変身を望む純粋性とその弱さ・愚かさ】
  本作は初心な普通の女の子が、社会の底層へと転がり落ち続けていく様を描く明確な“堕ちモノ”であると同時に、一般的な“堕ちモノ”のエンドロールの後にあるもの、堕ちてしまった後もその代償を払い続けながら“弱さ”を抱え続けて無様に生きていく様子を胸糞悪さを感じる強度で描いていることにも価値があると評し得るでしょう。
ヒロインが有していた、大人の世界への憧れ、他者とは違う存在になりたいという願望、好きな相手に尽くしたいという恋心はいずれも普遍的な感情であり、それらが悪用され、更には彼女の若さ故の浅慮や弱さが不幸をブーストし、他者から切り離され、使い捨てられ、文字通り足蹴にされる存在へと沈み込ませていきます。
Emergence4本作の転落劇にあるのは、疎外された者、弱さを抱える者が、むしろそれ故に社会のセーフティネットに掬われることなく、他者に食い物にされ好き勝手にされるという非常なリアルさを以て描かれており、自らの弱さや愚かしさを身を以て痛切に理解しながらも堕落から逃れられない悲痛な様子と密接につながっています(←参照 自身の大切な存在すら薬物を止めてはくれない 長編第7話より)。
  この転落劇そのものが、本作のタイトルである“変身”でもあるのですが、本作はその最終盤にもう一つの“変身”をヒロインにさせることになります。非常に重要なネタバレになるので、敢えて伏せますが、最終盤の描写の有無で本作の印象は大きく異なるものになったでしょうし、ラスト5Pをどう解釈するかでもラストの余韻は大きく変化するでしょう。
最終盤まで薬物への依存を断ち切ることができず、ある意味で最も愚かな手段で幕を引いたヒロインの愚かしさ・弱さ、不要な“変身”を徹頭徹尾、冷徹な筆致で描き続け、底辺を喘ぐ中でも彼女の心の寄る辺となり得た最後に残った一つの感情・愛情すら、自身の弱さと他者の悪意によって踏み躙られ、彼女を踏み止まらせることはできませんでした
これは二通りあるラストの一方の解釈ではあるのですが、悲しい激情を曝け出した後、ラストに幻の中で与えられた、普通の人生を歩んでいれば自然と迎えられたはずである“変身”を彼女の現実と対比的に描きながら、深く暗く沈み込む静謐で物語は閉じられています。

  抜きツールとしてもストーリーとしても非常にヘビィな1冊であり、読むにしてもレビューを書くにしても非常に胆力を擁する作品でした。これを描き上げた作家としてのパワーには感服します。
読み手をかなり選ぶ作品ではありますが、強烈な作品を読みたい諸氏にお勧めです。